B棟高層棟の外観
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システムの概要図とB棟の平面図
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 清水建設は、非常用エレベーターを避難誘導に使う「高層病棟避難安全システム」を開発した(リリース)。都心部の病院の高層化に対応して、安全で確実な火災時避難を実現するという。順天堂大学、早稲田大学との共同研究を経て実用化したもので、適用第1号は順天堂医院(仮称)B棟高層棟(東京都文京区)となる。

 都心部の大規模病院では目下、施設のリニューアルが相次いでいる。その際、各種機能の集約と土地の高度利用を図るために病棟を高層化する傾向がある。高層化に伴って課題となるのが、火災時の避難誘導だ。従来の病院では、火災時の避難については階段を使うことが原則だった。また、自力で避難できない患者のためにバルコニーへの一時退避を併用する設計がなされていた。一方、高層化するとバルコニーへの避難に危険を伴う上に、はしご車による救助も難しくなる。そこで新しい避難システムの開発が求められていた。

パナソニックと共同開発

 今回開発したシステムは、建物のフロアを複数ブロックに分割する水平防火区画、患者を煙から守る加圧防排煙設備、そして火災フェイズ管理型防災システム(フェイズシステム)から成る。フェイズシステムは火災の進展(フェイズ)を認識して各種の制御を行うシステムで、清水建設がパナソニックと共同開発したもの。同システムでは火災を早期に検知し、防火区画の閉鎖や防排煙設備の起動を自動で行うことができる。水平防火区画で分割した各ブロックには、非常用エレベーターを設置する。

 実際の避難誘導手順は次の通り。火災が発生し、フェイズシステムが出火を自動検知すると、防火区画の扉を閉鎖してフロアを二つに分割する。続いて加圧防排煙設備を起動する。出火区画では煙を排出し、非出火区画では廊下に新鮮な空気を供給して加圧する。これによって区画間に圧力差を設けて煙の侵入を防ぎ、非出火区画を一時避難エリアとする。

 このシステムでは、看護師らが防火設備の起動などを行う必要がなくなる。結果として、入院患者を一時避難エリアへいち早く避難させたり、非常用エレベーターを使って地上階や緊急治療が可能な階へ避難させたりすることができるようになる。消防隊は、出火区画側の非常用エレベーターを使って火災発生階に向かうことができる。

 適用第1号となる順天堂医院(仮称)B棟高層棟では、各フロアの面積が1360m2で、21室・42病床を設けている。火災発生時には、出火側区画で3万2000m3/時を排煙し、非出火区画側の廊下に1万8000m3/時を給気することで、非出火区画の約175m2を火煙の影響の少ない一時避難エリアとする。設計に当たっては、避難安全性評価(避難シミュレーション)を適用し、歩行困難な患者に対するスタッフの介助などの運用実態に即した検証を行ったという。その結果、一時避難エリアに安全に避難できることを確認した。

 今回のシステムでは火災初期の避難誘導に非常用エレベーターを使う。消防活動以外の用途で火災発生時に非常用エレベーターを使うのは、東京消防庁が2013年10月に制定した新指導基準「高層建築物における歩行困難者などにかかわる避難安全対策」に基づく措置。今回のB棟高層棟が認可の第1号案件となる。