図1:今回の手法が可能にする新しい診断プロセス
図1:今回の手法が可能にする新しい診断プロセス
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図2:診断能の評価結果
図2:診断能の評価結果
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 国立がん研究センター研究所と塩野義製薬などの共同研究グループは、従来の約40分の1の血液量で半日以内に大腸がんを診断できる検査手法を開発した(リリース図1)。従来は検出できなかった早期の大腸がんも診断できるという。既に、実用化に向けた開発に着手している。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「がん超早期診断・治療機器の総合研究開発」プロジェクトの成果で、英科学誌「Nature Communications」に2014年4月7日付で掲載された。

 大腸がんは、日本国内では胃がんに次いで2番目に罹患者数が多いがんである。2015年には胃がんを抜き、罹患者数が最も多くなると予測されている。

 大腸がんの検診方法としては、便潜血検査法がよく知られている。集団を対象とする検診方法としては費用対効果が高いが、感度や特異度が十分ではなく、進行した大腸がんでも陰性(偽陰性)となることがあるという。精密検査として行われる大腸内視鏡検査にも課題がある。検査への恐怖心などから、便潜血検査が陽性で「要精密検査」の対象となっても受診率が60%ほどにとどまっていることだ。そこで大腸がんでは、高い精度を備え、しかも集団検診で利用できる検診手法の開発が急務となっている。

従来の腫瘍マーカーよりも診断能が高い

 研究グループは、血液中の「エクソソーム」と呼ぶ物質に着目した。エクソソームは細胞から分泌される直径30~100nmの微少な小胞で、血液や唾液、尿などに存在する。今回の手法は、がん細胞に特異的なタンパク質やマイクロRNAを含むエクソソームを利用し、従来法では1日を要するエクソソームの検出時間を1.5~3時間に短縮した。検出に必要な血液(血清)の量もわずか5μlで済む。研究グループはさらに、大腸がんが分泌するエクソソームに多く含まれるタンパク質の存在を明らかにし、大腸がん患者の血清から大腸がん由来のエクソソームを検出することに成功した。

 大腸がん患者194人と健常人191人の血清を今回の手法で解析したところ、CEAやCA19-9などの腫瘍マーカーを使う従来の血液検査に比べて、AUC(area under the curve)が高いとの結果が得られた(図2)。AUCは診断能の評価指標の一つで、数値が高い方が診断能が高い。さらに、従来の血液検査では見つけることができなかった早期がんを検出できる可能性があることも確認したという。

 今回の方法を大腸がん検診に応用できれば、患者と医療従事者の双方の負担を軽減できる。加えて、早期発見が難しいすい臓がんや、がん以外の疾患の診断法としても期待が持てるという。検査方法についても、血清だけでなく尿や唾液への応用が可能だ。NEDOは引き続き今回の開発を支援し、臨床現場で使える小型の質量分析計と組み合わせた形での実用化を目指すという。