ソニーへ所有主が移った鶴岡工場(2013年9月撮影、他の写真も同様)
ソニーへ所有主が移った鶴岡工場(2013年9月撮影、他の写真も同様)
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鶴岡中央工業団地でも目立つ存在
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味の濃厚さで知られる「だだちゃ豆」が名物
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地元が生んだ作家、藤沢周平の記念館
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 ソニーは2014年3月31日、ルネサス エレクトロニクスの鶴岡工場の買収手続きを完了した(関連記事)。ルネサスのSoC製造拠点だった同工場を、ソニーはCMOSセンサーの拠点として蘇らせる計画だ。

 さかのぼること8カ月、鶴岡市の行政関係者は大きな衝撃を受けていた。「まさか閉鎖とは…」。関係者はその日のうちに緊急会議を開いた――。

 2013年8月2日、ルネサスは民生機器向けSoCの主力製造拠点だった鶴岡工場を2~3年以内に閉鎖すると発表した。2012年時点では「1年以内に売却する」としていた拠点である。同工場は40nm世代までの微細化に対応できる300mmラインを備え、任天堂のゲーム機向けSoCの受託生産などで知られる。JR鶴岡駅の北側にある鶴岡中央工業団地の中でもひときわ目立つ存在だ。

 出羽三山を仰ぐ日本有数の稲作地帯、庄内平野。その南部に位置する山形県鶴岡市に所在する旧 ルネサス山形セミコンダクタ(現 ソニーセミコンダクタ 山形テクノロジーセンター)はかつて、県内最大級の企業だった。同社の従業員数は、2013年6月時点で912人(2014年1月時点の鶴岡工場の従業員数は約680人)。2012年夏までは1200人を超えていたが売却検討の発表を受けて300人ほどが早期退職した。それでも1000人に迫る人員を抱えるメーカーは、鶴岡市には他にほとんど存在しない。鶴岡工場の行方は地元にとって、まさに死活問題だった。

 鶴岡市近辺で求人が多いのは製造業では農業機械関係、その他では観光業や医療・福祉などだ。ルネサスを除けば、庄内地域にある電機関連の大手企業は酒田市のセイコーエプソン(東北エプソン)に限られる。このため鶴岡工場の従業員にとって、同業種への転職は難しい状況にあった。

実った地元関係者の願い

 地元行政関係者は2013年8月2日の発表を受けて、鶴岡工場の操業継続と雇用の維持を求める要望書を、ルネサス側の発表から5日後の8月7日に経済産業省に提出した。翌日にはルネサス本社にも要望書を提出。8月26日には経産省とルネサス本社に再度の要望書を提出した。

 この間、ルネサス幹部が地元行政関係者のもとを訪問。閉鎖予定とは発表したものの、売却に向けた交渉は継続するとの説明があったという。「我々にとっては雇用の維持が何よりも重要。少なくとも売却先を見つける努力を最後まで続けてほしい」。行政関係者は必死の思いを伝えた。

 それから8カ月。今、鶴岡市の行政関係者は一様に安堵の表情を浮かべているだろう。ソニーの鶴岡工場から生まれるCMOSセンサーは地元にとって「だだちゃ豆」以来の“ヒット商品”となりそうだ。