従来機種のPROBEAT-III。今回は小型・低コスト化を図った
従来機種のPROBEAT-III。今回は小型・低コスト化を図った
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 日立製作所は、北海道大学と共同で開発した陽子線がん治療装置「PROBEAT-RT」について、薬事法に基づく医療機器の製造販売承認を取得した(発表資料)。2010年に国家プロジェクト「最先端研究開発支援プログラム」の採択を受けて開発を進めていたもの。北大は2013年度中に、この装置を使った治療を始める予定だ。

 PROBEAT-RTの特徴は、照射方式をスポットスキャニング方式のみに特化し、小型・低コスト化したことだという(関連記事:「放射線治療の最前線」第2回:動く臓器のがんを追跡・追尾して正確に照射)。北大が放射線治療で培ってきた知見と、日立の持つ設計技術を融合し、ガントリー・照射ノズル・加速器を小型化し、装置の機器配置を見直すことで、小型化しながらも使い勝手のよい装置を実現したとする。従来、日立が販売してきた「PROBEAT-III」に比べて、周長23mだった加速器は今回の装置では18mに、最大外形長11m、内径3.5mだったガントリーも最大外形長9m、内径2.5mに小さくした。システム全体の設置面積は約7割まで縮小した。

 スポットスキャニングとは、腫瘍を照射する陽子線のビームを従来の方式のように拡散させるのではなく、細い状態のまま用いる照射方式。照射と一時停止を高速で繰り返しながら順次位置を変えて陽子線を照射することで、複雑な形状の腫瘍でも、その形状に合わせて、高い精度で陽子線を照射でき、正常部位への影響を最小限に抑えられるという。

呼吸などで動くがんを追跡照射する装置も

 最先端研究開発支援プログラムに選ばれた北大の医学研究科教授である白土博樹氏の「持続的発展を見据えた『分子追跡放射線治療装置』の開発」では、呼吸などで位置が変わる腫瘍に対して精度よく陽子線を照射する技術と装置の小型化が課題になっていた。北大の持つ「動体追跡照射技術」とスポットスキャニング照射技術を組み合わせた治療装置については、現在、医薬品医療機器総合機構に製造販売承認を申請中。なお、陽子線がん治療システムの開発と並行して、共同提案者である京都大学教授の平岡真寛氏が、X線治療の分野で、腫瘍を追いながら照射する追尾型画像誘導X線治療装置を開発する予定だ。

 動体追跡照射技術は、腫瘍近傍に2mmの金マーカーを刺入し、CT装置であらかじめ腫瘍中心との関係を把握しておき、2方向からのX線透視装置を使い、透視画像上の金マーカーをパターン認識技術にて自動抽出し、空間上の位置を周期的に繰り返し計算する。そして、金マーカーが計画位置から数mmの範囲にある場合だけ照射する。これを高速で行うことで、呼吸などにより体内で位置が変動するがんでも高精度で照射できるようになるとする。動いているがんの範囲をすべて照射する方法に比べて、照射体積を1/2~1/4に減らし、正常部位への照射を大幅に減らせるという。