開発した人工内耳SoC。(写真:MITのMarcus Yip氏ら)
開発した人工内耳SoC。(写真:MITのMarcus Yip氏ら)
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 米Massachusetts Institute of Technology(MIT)の研究者は、外付けのマイクや電池が不要な人工内耳システムを開発したと発表した(発表資料)。人間の中耳の仕組みを用いて電気信号を発生させるため、これまでの人工内耳システムで必要だった外付けのマイクや電池が不要になるという。詳細は、米サンフランシスコで開催された半導体の国際学会「International Solid-State Circuits Conference(ISSCC)2014」で発表した[講演番号18.2]。

 MITが開発したのは、ダイの寸法が3.6mm角のICと圧電センサーなどから成るシステム。人間の中耳の骨「槌骨(つちこつ)」に圧電センサーを装着し、ICは内耳に埋め込む。槌骨が音によって振動すると、その振動を電気信号に変換して、ICに伝える。ICは、電気信号を内耳の蝸牛に代わって周波数分解し、最大で8チャネルに分けて信号を聴神経に伝える。またこのICは、人によって異なる音響感受性に合わせて、各周波数帯の出力レベルなどを調整できる。

 この人工内耳システムは既に、遺体から採取した耳の組織を利用して動作を検証し、周波数が300Hz~6000Hz、音圧が40~90dBの音を検知できることを確認したという。

 圧電センサーとICの消費電力は0.6mW以下と小さい。MITの研究者らは、耳に小型の蓄電池を埋め込み、電源として利用することを想定する。蓄電池は、枕や携帯電話機などを介してワイヤレス給電で充電する。
  

 ちなみに、人工内耳システムは以前から実用化されており、世界で数十万人の利用者がいる。ただし、内耳にある蝸牛に電極を差し込んだ上で、外付けのマイクや電池を耳の後ろなどに装着して利用する。このため、美容上の課題や、浴室など水を使う場所では利用できないなどの課題が残っていた。