Steam Dev Daysの会場内
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配布された「Steam Machine」のベータ版
配布された「Steam Machine」のベータ版
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「Steam Controller」のベータ版。左手と右手用に二つのタッチパッドを搭載する
「Steam Controller」のベータ版。左手と右手用に二つのタッチパッドを搭載する
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ゲーム業界は今、大きな転換点に来ている。それを象徴するのが、米Microsoft社や任天堂、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)といった従来のゲーム機メーカー以外から登場している、新しいゲーム機である。中でも注目を集めているのが、米Valve社が2014年にも製品化予定の据置型ゲーム機「Steam Machine」だ。Valve社はゲーム配信サービス「Steam」を運営している。ゲーム配信のみならず、ユーザー同士のコミュニケーションを促すサービスなどもSteam上で展開し、多くのゲーム愛好者から支持されている。Steamへの登録ユーザー数は7500万に達した。配信タイトル数も3000ほどと急成長している。その同社が開発したゲーム機とあって、ゲーム業界関係者やゲーム愛好者などが、Steam Machineに強い関心を寄せている。そのベータ版を入手したエクシヴィ 代表取締役の近藤義仁氏に、第一印象やSteam Machineの可能性について解説してもらう。なお、エクシヴィはソフトウエアの設計や開発などを手掛けている。(日経エレクトロニクス)

 筆者は2014年1月15~16日に米国シアトルで行われたValve社のゲーム開発者向けイベント 「Steam Dev Days」に参加した。Steam Dev Daysでは、Steam開発者に向けたセッションや交流会である。その参加特典として、参加者全員にSteam Machineとその専用コントローラー「Steam Controller」のベータ版が無償で配布された。Steam Machineは、Valve社のゲーム用OS「Steam OS」を搭載したパソコンの総称で、同社以外もSteam OS搭載パソコンを開発・販売する。同OSを搭載したパソコンは数百米ドルほどで、それを1000人近い参加者に無償で配る部分に、Steam MachineにかけるValve社の意気込みを感じた。

 Steam Dev Daysではゲーム機だけでなく、ホテルの朝食が参加者全員に振る舞われたり、夜にはバーカウンターが設けられたりして、自由に飲食できる。会場のいたるところにソファーが置かれており、開発者同士がゆっくりと話せる配慮もあった。Steam Dev Daysの最終日は盛大なパーティーが催された。こうしたイベントの様子からは、開発者同士の交流を重視し、閉鎖的ではなく情報をオープンにして、開発者同士一体感を持ってゲームを作ってもらいたいというValve社の姿勢が感じられた。これは、同社の理念に基づくものだろう。

 同社は、Steam Machineによってユーザー層の拡大を狙っているようだ。これまでSteamはパソコン利用するゲーム愛好者を主なターゲットにしていた。Steam Machineはリビングにあるテレビにつなげて楽しむことを意図して設計されている。つまり、ゲーム愛好者のみならず、家族全員も楽しめるゲーム機を志向しているわけだ。

 これまでのSteamのユーザーインターフェース(UI)は、パソコンのマウス操作を前提にしたものだった。一方で、Steam MachineのUIは、テレビ上での動作を前提としているため、専用コントローラーで操作しやすいUIに変わっている。まだベータ版ということもあり、PS3やXbox360などの他の家庭用ゲーム機に比べれば直感的に操作できないメニューなどもあってまだ洗練されていない印象だ。こうした点は、最終出荷バージョンでは改善されるだろう。なお、日本語フォントは文字化けしてしまうので、日本での発売は北米での発売よりも先になりそうだ。

 ベータ版ながら完成度が高いと感じたのがSteam Controllerだ。同コントローラーの特徴は、左手と右手用に二つのタッチパッドを搭載したことにある。一般的なゲームコントローラーでは、どちらか一方にだけタッチパッドを載せる場合が多い。これは、あたかも自分が見ているような「一人称視点」で操作するファースト・パーソン・シューティング(FPS)と呼ばれるジャンルのゲームがSteamで人気なことが関係している。FPSをパソコンでプレーする場合、キーボードの「A」「S」「W」「D」キーでキャラクターを移動させ、マウスを使って銃で狙いを付けるという操作が一般的だ。これを従来型のコントローラーで操作するのは難しい。そこで、FPS向けにSteam Controllerを開発した。

 Steam Controllerでは、左側のパッドを親指で操作してキャラクターを移動させ、右側のパッドを親指で操作して狙いをつける。このままでは細かなフィードバックを得られにくいため、パッドに触覚フィードバック、いわゆる「ハプティック」機能を追加した。パッドを操作すると心地よい振動が親指の指先に返ってくる。タッチパッドを利用した平面的な操作にもかかわらず、「機械じかけのネジ」を触っているかのような感覚だった。

 この触覚フィードバック機能により、指先の微調整による操作を可能にしている。この感覚は米Microsoft社の「Arc touch mouse」のホイール部分を指先で触った感じに近い。

 以上が、ベータ版Steam Machineの第一印象である。最後に、Steamの将来を考えてみたい。Steamは、今後User Generated Content(UGC)の強力な流通網になり得る。個人、あるいは少人数の開発者が作った「インディーゲーム」を、Steam上で交換することになりそうだ。加えて、VRゲームの配信プラットフォームにもなるとみられる。実際、ゲーム用HMD「Oculus Rift」を開発したOculus VR社とValve社の関係は深く、「Steam Dev Days」にもOculus VR社のファウンダーである Palmer Luckey氏のVRに関する講演もあった。Steam MachineにOculus Riftを接続し、VRゲームを楽しむことができるようになるだろう。

 7500万という登録アカウント数を持つSteamが、Steam Machineによって狙い通りリビングの主役になれるかどうかに強い関心を持っている。Steam Machine普及の障壁になり得るのは、Steam OS自体が「Debian Linux」を基にしている点だ。多くのインディーゲームは、Windows上でDirectXを使って作られている。そのため、Linux上だけで動作するゲームを用意するというのは難しいかもしれない。マルチプラットフォームに対応するゲームエンジン(Unityなど)で簡単にSteam OS向けゲームを制作できるようになるかどうかが、Steam Machine普及のカギを握るだろう。