図1●東レ、日本電信電話(NTT)、NTTドコモ(ドコモ)の3社が共同で開発した生体情報計測用ウエア。着るだけで心拍数や心電波形の計測が可能。写真:吉田勝=日経ものづくり
図1●東レ、日本電信電話(NTT)、NTTドコモ(ドコモ)の3社が共同で開発した生体情報計測用ウエア。着るだけで心拍数や心電波形の計測が可能。写真:吉田勝=日経ものづくり
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図2●ウエアの裏側に貼り付けられた電極。灰色の部分がそれ。写真:吉田勝=日経ものづくり
図2●ウエアの裏側に貼り付けられた電極。灰色の部分がそれ。写真:吉田勝=日経ものづくり
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 東レ、日本電信電話(NTT)、NTTドコモ(ドコモ)の3社は共同で、着るだけで心拍数や心電波形の計測を可能とする新しい機能素材「hitoe」と、その第1弾のアプリケーションとなる生体情報計測用ウエアを開発した(図1)。生体情報計測用ウエアは、専用の無線通信装置とスマートフォンを組み合わせて使うもので、これにより心拍数や心電波形のリアルタイムでの把握が可能となる。

 最大の特徴は、生体情報を計測する従来の機器と違い、電極を肌に貼り付けなくて済むこと。日常生活を阻害せずに生体情報を計測できるため、不快感を与えずに長時間の連続計測が可能になる。想定用途は、例えば、フィットネスクラブにおける会員の心拍数や心電波形の計測や、介護施設や家庭における要介護者の拍動の計測などという。2014年中をめどに、ドコモが同生体情報計測用ウエアとスマホを活用したサービスを開始する予定だ。

 生体情報計測用ウエアは、ウエアの裏側、具体的には胸の左右と左胸の下側辺りに、電極となるhitoe製の四角い布地を貼り付けたものだ(図2)。そして、左肩には専用の無線通信装置を取り付けるコネクタを組み込み、同コネクタと前述の電極をつなぐ配線となる導電性の糸(表面を被覆して絶縁性を持たせたもの)を縫い込むことで実現している。着る人の体形によって電極が体に触れる位置が微妙にずれるため、電極の位置とサイズを最適化している。配線に使う導電性の糸も縫製のやり方を工夫することで、伸縮可能とした。電極の素材(hitoe)についても、体形差や体の動きによって着圧が上がりすぎたりしないように、伸縮性を持たせている。

 さらに、hitoeには、洗濯に対する耐久性と肌への密着性を高める工夫が盛り込まれている。具体的には、直径が700nmと細いポリエチレンテレフタレート(PET)製のファイバー(PETナノファイバー)を使うことでそれを実現している。通常、衣料品で使うPET繊維は、直径が15μm程度と太いもの。その表面に導電性高分子をコーティングしても、洗濯の際に簡単にはがれてしまうし、繊維が円形断面をほぼ保つことから肌とは線接触に近い状態で接触することになる。そこで、3社が考えたのが、PETナノファイバーのファイバーとファイバーのすき間に導電性高分子を含浸させること。細部のすき間まで導電性高分子を入り込ませることで、洗濯しても簡単にははがれないようにしたのだ。加えて、繊維の細さと導電性高分子の高い柔軟性の効果で布地のしなやかさを向上させ、肌との密着性を高めた。洗濯への耐久性に関しては、「洗濯用ネットに入れて洗濯する場合で30回、手洗いの場合で50~60回であれば、それぞれ導電性の性能を維持できる」ぐらいとしている。

 3社によれば、hitoeでは導電性高分子として、PEDOT-PSS〔ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)〕を使う。また、生体情報計測用ウエアの電力源としては、専用の無線通信装置に組み込んだボタン電池を使っているという。