米University of California, Berkeley(UCB)が開発した回路シミュレータの「SPICE」はコードが公開されていて、改良も行えるし、改良版を販売することも可能だ(一定の条件はある)。EDAベンダーはもちろんのこと、アナログ半導体メーカーも、独自改良版のSPICEを提供している。その中で、アナログ回路設計用のSPICEとして(多分)最も普及しているのが、米Linear Technology社の「LTspice」である。初来日した開発者のMike Engelhardt氏(Manager of Simulation Development)に話を聞いた(図1)。(聞き手は小島郁太郎=Tech-On!)

現在、LTspiceにはどのくらいのユーザーがいるのか。

図1●LTspice開発者のMike Engelhardt氏 Tech\-On!が撮影。
図1●LTspice開発者のMike Engelhardt氏
Tech-On!が撮影。
[画像のクリックで拡大表示]

 LTspiceのライセンス数は600万以上だが、これがそのままユーザー数とは思っていない。恐らく100万人弱がアクティブ・ユーザーだろう。さまざまな場所にユーザー会がある。例えばYahoo上のユーザー会は、4万6000人以上の会員をかかえている。また、先日、日本でもユーザー会「LTspice Users Club」が発足した(ホームページ)。それを記念して2013年12月3日に東京で開いたセミナー「LTspiceユーザーの集い」には350名を超える方に来場してもらった。

それだけ普及した理由を開発者としてはどう考えているのか

 非常に高速なことがまず挙げられる。また使いやすい。入力は回路図ベースで行えるし、結果は波形で表示されるなど、GUIも備えている。ほとんどのスイッチング・レギュレータにおいて、波形表示をほんの数分で行なうことができる。LTspiceは無料なので、EDAベンダーの製品よりも劣っていると思われていた頃もあったが、決してそんなことはない。むしろ、勝っている。その大きな理由は投入できる開発リソースにある。

 EDAベンダーのSPICEの年間売上高は数百万米ドルに過ぎない。これでは開発に十分なリソースを投入できないだろう。一方、Linear Technologyの年間売上高は10億米ドル(筆者注:2013年6月30日を末日とする同社の2013年度売上高は12億8000万米ドル)を超える。その売り上げ達成のための手段としてのSPICEならば、EDAベンダーよりも開発リソースをかけられるだろう。

 また、実際のユーザーが開発した方が優れたものができるという理由もある。MOS FET回路のソルバーは米Intel社が開発したものがベストだろし、レーダーの反射のソルバーは軍が開発したものがベストだろう。そして、アナログ回路のソルバーは、アナログ半導体メーカーの当社が開発したものがベストだ。ベストなソルバーの開発は、ソフトウエア企業のEDAベンダーでは難しいだろう。

半導体メーカーの開発用にはHSPICE(米Synopsys社製品)が普及しているが、LTspiceはLinear Technologyの社内で開発用にも使われているのか。

 数年前に当社内のHSPICEユーザーの大半がLTspiceに移行し、現在のメジャーなSPICEはLTspiceになっている。なお、社内の設計者にLTspiceを使う義務はない。製品設計にベストなツールを使うし、1種類のSPICEに限定されることもない。その意味で社内では、HSPICEはLTspiceと競合している。ベストなSPICEを開発する必要はここにもある。

LTspiceのコード規模はどのくらいか

 演算部分が40万行。GUIが10万行。規模だけでなく、演算部分の方が基本的に難しく開発は大変だ。

開発はあたな1人でやっているのか

 違う。チームでやっている。チームの規模は企業機密で話せないが、複数で開発している。