左は、InGaN多重準位中間バンド太陽電池の構造。右は、 InGaN多重準位中間バンド太陽電池のバンドダイアグラム概略図(出所:物質・材料研究機構)
左は、InGaN多重準位中間バンド太陽電池の構造。右は、 InGaN多重準位中間バンド太陽電池のバンドダイアグラム概略図(出所:物質・材料研究機構)
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 物質・材料研究機構は12月6日、太陽電池の材料である窒化インジウムガリウム(InGaN)に多重の量子ドット(中間バンド)を形成することで、従来は難しかった太陽光の450~750ナノメートル(ナノは10億分の1)波長部分の活用に成功した、と発表した。これまでInGaNはこれより短い波長の太陽光しか利用できなかった。太陽光の全波長を電力に変換できることで、大幅な変換効率の向上が期待できるという。

 太陽電池の変換効率を高めるためには、材料の品質や太陽電池構造を改善して電気エネルギーへ変換する効率を上げる方法と、太陽光の特定の範囲の光だけでなく、広い波長範囲の光を利用する方法の二つのアプローチがある。化合物半導体型の太陽電池では、利用できる太陽光の波長範囲が用いる半導体材料の元素種や結晶構造に特有のバンドギャップで決まるため、特定の波長範囲の光しか利用できないという欠点がある。そのため、バンドギャップの大きさが異なる複数の半導体材料を積層したタンデム構造や量子ドット構造を埋め込み、より波長の長い太陽光成分も利用する量子ドット太陽電池等が研究されている。しかし、これまでの構造では格子形状の違いや使用できる半導体材料の制限によって変換効率の大きな向上が困難だった。

 そこで、本研究グループでは、GaNとInNが同様の構造を持っていること、及びその波長範囲が太陽光の全波長範囲を含んでいることに着目。In組成を制御した窒化ガリウムインジウム(InxGa1-xN)混晶を中心として、中間バンドを形成できれば、バンドギャップエネルギーに相当する光のみならず、それよりも長波長側、すなわち、太陽光の主要な構成波長である緑や黄色などの可視光を利用して変換効率を向上すると考えた。有機金属化学堆積法を用い、InGaN量子ドットを各量子井戸に埋め込んだ構造の中間バンド太陽電池を作製した。この太陽電池の外部量子を測定したところ、本来のInGaNでは利用できなかった450~750ナノメートルの光が吸収され、電気エネルギーに変換されていることを確認した。