図●北極海の海氷を観測するための超小型人工衛星「WNISAT-1」の管制システム。千葉市美浜区にあるウェザーニューズのオフィス内に設置されている。
図●北極海の海氷を観測するための超小型人工衛星「WNISAT-1」の管制システム。千葉市美浜区にあるウェザーニューズのオフィス内に設置されている。
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 ウェザーニューズがアクセルスペース(本社東京)や東京大学、千葉大学と共同で開発した北極海の海氷を観測するための超小型人工衛星「WNISAT-1」。そのWNISAT-1が、2013年11月21日16時10分(日本時間)ごろ、ロシアの液体燃料ロケット「ドニエプルロケット」によってほぼ予定通り打ち上げられた(続報)。

 射場はロシアのヤースヌイ宇宙基地。現地の天気は快晴。同ロケットは真南からわずかに傾いた方向に飛び立ち、アフリカ大陸の東側(アラビア半島の南側)の海域の上空(高度約600km)に到達。打ち上げから約16分後の16時26分07.879秒(日本時間)にWNISAT-1を分離した。

 同ロケットは、今回、24基の人工衛星を搭載しており、WNISAT-1は最後から2番目に分離された。予定通りの軌道に乗るかどうかは、WNISAT-1の管制システムがある千葉市美浜区の上空をWNISAT-1が初めて通るとされる11月21日20時ごろ以降に判明する予定だ。

 WNISAT-1は、北極海の海氷を撮影するための光学カメラ(青色、緑色、赤色の可視光カメラと近赤外線カメラ)と、大気中の二酸化炭素の濃度を推定するためのレーザモジュールを搭載した27×27×27cmと超小型の人工衛星。質量は約10kg。寿命は5~10年。光学カメラやレーザモジュールの他には、太陽電池パドル、リチウムイオン電池、オンボード・コンピュータ、太陽光センサ(太陽光を受けて人工衛星の向きを判断)、スターセンサ(恒星のマップを持ち、撮影した画像から人工衛星の向きを判断)、磁気センサ(地球が発生させた磁場を測ることで人工衛星の向きを判断)、ジャイロ、磁気トルカ―(地球の磁場に対して磁界を発生させることで人工衛星の姿勢を変えるアクチュエータ)、リアクションホイール(ホイールを回転させて慣性力で人工衛星の姿勢を変えるアクチュエータ)を搭載する。

 低コスト化のために、(1)太陽電池セル以外は民生用の部品で対応(太陽電池セルは放射線で劣化しにくい宇宙用の部品を採用)、(2)太陽電池セルとリアクションホイール以外は高価な部品を購入せずに独自に設計、(3)開発期間の短期化で人件費を削減、(4)環境試験などは必要な条件を幾つかに絞り込む、といった取り組みを行ったという。ウェザーニューズによると、WNISAT-1の打ち上げ費用は、研究開発費を含めて約2億6000万円だ。

 ウェザーニューズが北極海の海氷を観測するための人工衛星を打ち上げるのは、近年の気候変動によって、夏の約3カ月の間、北極海の海氷が減ってきたことで、北極海が欧州とアジアを結ぶ航路として徐々に使えるようになってきているためだ。現在、欧州-アジア間の輸送には、通常はスエズ運河か喜望峰を経由するが、北極海航路を利用すると、その距離を順に約2/3、約1/2にでき、1回の航海の費用を数百万円から1000万円超減らせる。そのため、、海運会社が大きな期待を寄せている。

 ただ、安全な航海を行うには、氷塊がどこにあって、これからどう動くのかの海氷の分布予測や海峡などの難所の直前の状況といった情報が必要になる。そうした情報を必要な頻度でタイムリーに必要な形で提供するには、自前の人工衛星が必要だった。ウェザーニューズでは、これまで北極海の海氷の分布予測に既存の人工衛星の観測データを使っていた。しかし、高価だったり、分解能が必要レベルの下限に近かったり、求める頻度でデータを入手できなかったりするという制約があった。