図●M<sub>6</sub>L<sub>4</sub>(Mは金属、Lは配位子)の金属錯体は、自己組織化によってかご状の空間が3次元に並んだ構造をつくる。そのかごの中に、測定対象の分子を入れる。
図●M<sub>6</sub>L<sub>4</sub>(Mは金属、Lは配位子)の金属錯体は、自己組織化によってかご状の空間が3次元に並んだ構造をつくる。そのかごの中に、測定対象の分子を入れる。
[画像のクリックで拡大表示]

 東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻の藤田誠教授の研究グループは、結晶化しにくい高分子などの物質を見かけ上、結晶化した状態にする“結晶スポンジ法”という手法を実用化するメドをつけたと発表した。

 2013年9月19日に文部科学省系の科学技術振興機構(JST)が開催した理事長記者説明会の中で、材料分野での最近の研究成果トピックスとして、藤田教授が説明したもの。

 物質・分子の構造を解析する観察・分析装置では現在、NMR(核磁気共鳴)、MS(質量分析)、Xray(X線結晶構造解析)の3つの手法が利用されている。この中で、X線結晶構造解析は結晶構造を構成する各原子の位置などが分かることから、結晶構造解析の中では一番利用したい分析手法になっている。

 ところが、観察対象の物質・分子の試料を作製するには、まずその対象物質・分子を高純度に精製してある程度の量を確保し、それを結晶化する必要がある。ところが、高分子などの中には、結晶化か困難なものが多く、事実上諦められてきた。

 この難問に対して、藤田誠教授の研究グループは、その解決につながる次のような現象を見いだした。すなわち、「M6L4(Mは金属、Lは配位子)などの構造の金属錯体では、自己組織化によってかご状の空間が規則正しく3次元構造をとる。このかご状空間の中に、分析したい対象分子を入れると、見かけ上は結晶化したと見なせる」という現象だ(図)。

 「分析対象の分子がかご状空間に、すわりのいい状態・位置で3次元的に固定され、見かけ上は結晶化したことになる現象を利用すると、X線結晶構造解析手法が利用できることを確認した」と藤田教授はいう。計測したい対象分子が、錯体のかご状の3次元構造に吸われることから、この手法を「結晶スポンジ法」と名付けている。