図1
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図2
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 2013年9月2~5日に函館で開催された「Topical Workshop on Heterostructure Microelectronics(TWHM 2013)」に参加した(図1)。この国際会議は隔年に開催され、今年で10回目を迎える。文字通り、異種材料を用いた構造体(ヘテロ構造)のマイクロエレクトロニクスへの応用を議論する国際会議である。今回の参加者は135名であり、コンパクトにまとまった国際会議といえる。多くは化合物半導体、特にGaAsやGaNを用いた高速RF素子やパワー半導体への応用を見据えた議論に充てられていた。

 GaN-on-Siのパワー素子への応用は間違いなく花開こうとしているが、長くSi半導体に携わってきた筆者にとって、GaN-on-Siは信頼性のモデルがまだ確立していないことが気掛かりである。すなわち、Si半導体ではバスタブ曲線モデルと加速試験の手法に従い、初期不良を抑え込むかスクリーニングすることができれば市場で10年間使うための信頼性保証の手法が業界で共有されている。これに対し、GaN-on-Siにはまだこうした手法が見当たらない。こうした手法のメドがたったときに、GaN-on-Siは本当の意味で花開くのではないかと感じる。

 会議の全体構成は、Plenary Session(1件)、Invited Paper(19件)、Contributed Paper(Short Presentation+Poster)(45件)となっている。今回、筆者は初めて参加したが、過去からの参加者の意見によれば「参加者が比較的固定されているので、Invited Paperを見ればこの領域での先端技術動向が垣間見える」とのことであった。

 Plenary Sessionでは東京大学からマイクロ波と赤外域の中間に位置する1012Hz帯(300μmの波長領域)での応用研究について講演がなされた。この領域での研究は電子デバイスと光学デバイスの中間領域にあたり、Single Molecular DeviceやSingle Quantum Dotsへの応用にとって重要であることが解説された。

 GaNの応用の機運は非常に高くなってきているが、大きく分けてRF素子への応用と、パワー素子への応用に分けられる。

 RF素子では、その高速スイッチング特性ゆえに効率が50%程度にまでしか向上しない。言い換えれば50%は熱損失となるわけで、放熱が非常に重要なファクターとなる。この観点から、GaAsとGaN-on-Si、GaN-on-SiCを比較した講演が米TriQuint Semiconductor社からなされた。必要な熱放散を考慮したFETの出力はGaAsではおおむね1W/mm、GaN-on-Siでは2W/mm、GaN-on-SiCでは4.5W/mm。これ以上のものを実現しようとするとダイヤモンド基板が必要になるという。入手しやすく熱伝導率の高いSiCを基板に使うことが現実的な解になっているようである。

 一方、パワー素子への応用については、米HRL Laboratories社よりGaN-on-Siが実用化されるためには99%以上の電力効率と100kHzの高周波数動作、安全性確保のためのNormally-Off Switchの実現が必要との見解を示した。同時にスケーラブルであることや、量産技術を確立することも重要としている。図2はこの講演で提示された95%の効率を達成した1MHz GaN昇圧コンバータ(動作電圧360V、出力425W)の事例である。こうした製品を普及させるためには、回路・組み立て技術でのパラダイムシフト、信頼性・頑健性の確立と並んで早期の応用投入が重要であることを強調していた。