グローバルファウンドリーズ・ジャパン 代表取締役の島内秀氏。富士通やTSMC Japan、米Cirrus Logic社、米Impinj社など多くの半導体企業に在籍。モーション・センサ大手の米InvenSense社のカントリー・マネージャーを経て、2013年4月から現職。
グローバルファウンドリーズ・ジャパン 代表取締役の島内秀氏。富士通やTSMC Japan、米Cirrus Logic社、米Impinj社など多くの半導体企業に在籍。モーション・センサ大手の米InvenSense社のカントリー・マネージャーを経て、2013年4月から現職。
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 ルネサス エレクトロニクスは8月2日、鶴岡工場など複数の国内生産拠点の閉鎖を発表した(SCR関連記事1)。半導体製造からの撤退が相次ぐ日本に、大きなビジネス・チャンスを見いだしているのがファウンドリー業界である。台湾TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Co., Ltd.)は富士通 三重工場の実質的買収に向けた交渉を進めており、台湾UMC(United Microelectronics Corp.)は2013年に日本でのマーケティング活動を再開した。これらの企業と同様に、日本企業との連携強化に動いているファウンドリー企業に、ここ数年で業界2位の存在に育った米GLOBALFOUNDRIES社がある(SCR関連記事2同3同4)。同社日本法人のグローバルファウンドリーズ・ジャパンの代表取締役に2013年4月に就任した島内秀氏に、日本での事業拡大への意気込みを聞いた(関連リリース)。

――GLOBALFOUNDRIES社が日本での市場開拓を狙うのは、どのような分野か。

 大きく三つを挙げることができる。第1に、MEMSセンサの周辺チップとして使うASIC。MEMSセンサの需要が世界的に伸びていることに加え、日本のセンサ・メーカーは世界市場で大きなシェアを獲得している。第2に、RFIDタグ用ICをはじめとするRFデバイス。RFデバイスは世界的に出荷量が伸びており、全社的な注力分野でもある。そして第3に、車載デバイス。ここは従来、品質保証の観点などからIDM(垂直統合型半導体メーカー)がもっぱら自社工場で生産するケースが多かった。だが40nm世代以降といった先端プロセスに関しては、外部委託へとシフトしている。

 残念ながら日本には、アプリケーション・プロセサなど先端論理LSIの大手ベンダーが存在しない。これが一因となり、当社の全社売上高に占める日本市場の比率は、現状ではとても小さい。パイ・チャートではほとんど数字に表れてこないほどだ。これを今後数年以内に、まずは5%まで高めたい。

 日本企業との協業を通じて学べることは非常に多いと思うし、それをグローバルの事業にも生かせるとみている。現在、日本の半導体業界は混沌とした状況にあるものの、復活の芽は十分にある。日本企業が蓄積してきた設計力に我々の製造技術を融合することで、日本の半導体復活の後押しができると思う。私がGLOBALFOUNDRIES社への移籍を決意した理由の一つも、日本の半導体業界のために何かをしたいということだった。日本企業はこれまでのマインド・セットを変え、ファウンドリーとうまく付き合い、使いこなして世界で勝負するという方向に向かうべきだろう。我々はそれを全力でサポートしたい。

――日本企業の多くはTSMCと協業関係にある。TSMCの牙城にどう挑む。

 数年前まで、多くの半導体メーカーにとってファウンドリーの選択肢は実質的にTSMCしかなかった。我々はこの状況を変化させており、多くのメーカーにとっての選択肢の一つになっているという確かな手応えがある。先端プロセスを例に取ると、TSMCと比べてそん色のない水準に達することができている。32~28nm世代のHKMG(高誘電率ゲート絶縁膜/メタル・ゲート)プロセスのウエハー出荷実績は業界の中でもとりわけ多いし、生産能力についても米国ニューヨーク州の「Fab8」を中心に非常に大きなキャパシティーを用意しつつある。

 次世代プロセスの準備も着々と進めている。FinFETを用いた14nmプロセスでは、特定顧客向けのシャトル・サービスを開始しており、2014年には一般顧客向けにも同サービスを提供する。FinFETだけでなく、FDSOI(完全空乏型SOI)技術を用意していることも他社との差異化要因になるだろう。

 我々は従来、プロセス技術のロードマップを明確に示せなかった部分があり、結果として長期的な協業ではなくピンポイントでの商談が多かった。ここにきて将来への技術ロードマップをきちんと示せるようになったことで、長期的なパートナーとして見てもらうことができるようになった。  

――日本の半導体メーカーが力を失っている今、機器メーカーが半導体メーカーをいわば“中抜き”して、ファウンドリーと直接付き合おうとする動きが出ているとも耳にする。

 彼らの意図がどこにあるのかは別として、機器メーカーから我々への問い合わせが増えているのは事実だ。2012年にモバイル端末向けチップの供給不足が顕在化したことなどもあり、何かのときのためにファウンドリーと直接のパイプを作りたいという思いがあるのかもしれない。我々は技術開発から前工程、そして後工程まで一貫した形でパートナーと協業する「Foundry 2.0」と呼ぶビジネス・モデルを推進している。こうした取り組みに、機器メーカーにも注目して頂けているのかもしれない。

 我々としては、半導体メーカーを中抜きして機器メーカーとの付き合いを深めようなどとは決して思ってない。ただし、機器メーカーはファウンドリーにとっては重要なパートナーになり得ると思うし、彼らと新しいビジネス・モデルを構築できる可能性もあるだろう。