TSMC Vice President, Research & DevelopmentのBurn J. Lin氏
TSMC Vice President, Research & DevelopmentのBurn J. Lin氏
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 台湾TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Co., Ltd.) Vice President, Research & DevelopmentのBurn J. Lin氏に、同社のリソグラフィ技術ロードマップを聞いた。EUV(extreme ultraviolet)露光技術の開発が業界全体で遅れていることを受けて、同社は40nm世代で導入したArF液浸露光技術を、28nm世代、20nm世代、16nm世代、10nm世代の計5世代に渡って利用する方向である。

 TSMCは28nm世代まではArF液浸のシングル露光を用いていたのに対し、20nm世代では最初の露光で形成したパターン・ピッチを1/2に分割するダブル・パターニング技術を導入する。同社は配線パターンの端部をカッティングするなどの目的で、以前から2回の露光によってパターンを形成する手法を利用していたものの、「ピッチを1/2にする目的で利用するのは20nm世代が初めて」(Lin氏)とする。20nm世代のリスク生産は2013年に既に開始した。

 2014年にリスク生産を開始する16nm世代では、立体チャネル構造のFinFET技術を導入するため、チップの消費電力や性能といった面では20nm世代に比べて改善する。ただし、メタル配線の設計ルールは基本的に変えないため、回路パターンの密度(ピッチ)は20nm世代とほぼ同等になる。このため、リソグラフィ技術については20nm世代から大きな変更はない。ただし、「FinFETの立体構造に対応するため、リソグラフィ技術の改善は必要」(Lin氏)とする。

 2015年後半~2016年前半にリスク生産を開始する10nm世代では、ArF液浸を踏襲しながら、元のピッチを1/4にまで縮小するクアドルプル・パターニング技術を、一部のクリティカル・レイヤーに導入する。また、技術開発が順調に進めば、10nm世代か7nm世代でEUV露光技術を一部のレイヤーに導入したいとする。7nm世代のリスク生産時期は今のところ未定だが、ムーアの法則から2018年ころと予想されるという。

量産向けEUV露光装置を導入

 TSMCでは当初、EUV露光技術を20nm世代から導入する予定だったが、EUV露光装置の光源の出力不足などの理由から採用を見送った。同社はオランダASML社の量産向けEUV露光装置「NXE:3300」を2台導入する計画。1台は既に設置が完了しており、2013年10月以降に露光実験を開始する。光源のバースト出力は約10Wであり、EUV露光装置のスループットは8枚/時と低い。2014年第2四半期には2台目のNXE:3300を導入する予定であり、ここでは30枚/時のスループットを想定しているという。

 なお、TSMCはEUV露光技術をどのようなレイヤーに利用する考えかを明らかにしていない。米Intel社は線幅/線間隔パターンとカッティング・パターンを組み合わせて任意のパターンを形成するコンプリメンタリー・リソグラフィ技術を量産に適用しており、同技術におけるカッティング・パターンの形成にEUV露光技術を利用することを検討している。これに対し、TSMCはコンプリメンタリー・リソグラフィをそもそも量産に使っていない。ファウンドリーであるTSMCでは、多くのユーザーの設計に対応しなくてはならず、「コンプリメンタリー・リソグラフィでは顧客が求める集積度を実現しにくい」(Lin氏)ためだ。

 Lin氏は、EUV露光技術の課題として、大きく三つを挙げている。第1は、光源出力の改善であり、「この課題が残り二つを覆い隠すほどに大きい」(同氏)という。一般に量産時にはEUV光源の出力を250Wに高める必要があるといわれている。最近では、まずは60~70Wを実現し、カッティング・パターンなどの部分的な露光から利用するのが現実的との声も出ているが、コストを重視するファウンドリーではこうした中途半端な利用法は受け入れがたいようだ。

 第2の課題は欠陥フリーのマスクを実現すること、第3の課題はマスクを保護する「ペリクル」を実現することである。EUV露光では当初、ペリクルを使わない手法が提案されていたものの、量産を想定した場合、「EUV露光であっても、ペリクルは必須」(Lin氏)との考え方が広まってきた。EUV露光用のペリクルでは、反射マスクの表面から一定の距離をおいて薄膜(ペリクル膜)を保持する必要があり、膜の透過率や機械的強度を高めることや、大面積の薄膜を形成する技術などが必要になる。