発売から9カ月を経た現在でも、国内の複合機・プリンター市場で首位争いを続けている製品がある。それが、セイコーエプソンが2012年9月に発売したインクジェット複合機「EP-805A」だ(図1)。調査会社であるジーエフケー マーケティングサービス ジャパンの「家電量販店におけるプリンタの週次モデル別販売数量ランキング」(週間の集計)によれば、2012年11月12~18日の週で首位になった後、2013年6月3~9日の週まで、29週連続で首位を保っている。

図1 インクジェット複合機「EP-805A」(写真:セイコーエプソン)
図1 インクジェット複合機「EP-805A」(写真:セイコーエプソン)

 EP-805Aのヒットにつながった最大の要因は、その小ささにある。前機種の「EP-804A」に比べて設置面積を約38%、体積を約40%も削減した(図2)。

図2 大きさの比較(図はセイコーエプソン)
図2 大きさの比較(図はセイコーエプソン)

 開発チームは前機種の発売の際も、小さいと自信を持って送り出した。だが、一部の消費者からは「まだ大きい」との声があった。そこで、「ユーザーは複合機をどこに置きたいのか」というところからスタートした。家であれば、カラー・ボックスや本棚の上に、オフィスであればそで机の上に置きたいなどの声が上がった。そこから導き出した設置面積(幅と奥行き)の目安が、以下のようなものだった。

 幅に関しては、400mmの天板からはみ出さないこと、奥行きに関しては、320mmの棚に設置できることを目標にした。

 高さに関しては、見た目で小さいと感じる値を目標にした。実際に発泡スチロールなどを使って、高さが異なる箱状のものを十数個試作し、小さく見える高さを求めた。もちろん、低ければ低いほど小さく見えるが、所望する機能を実現するのが難しくなる。性能と小ささを両立できる高さとして、140mmを目標に据えた。

 結論から言えば、EP-805Aは上記の目標を達成した。幅は390mmで高さは138mmにした。奥行きは338mmだが、320mmの棚に設置できるという。

 年々、セイコーエプソンは複合機の小型・軽量化を進めていたが、前機種に比べて設置面積を約38%、体積を約40%削減するのは非常に挑戦的な目標だった。そこで「仮想カタログ」を作り、開発に向けたキックオフ会議でメンバーに配布した。製品紹介はもちろん、問い合わせ先の電話番号が記載されているほど作りこんだもので、店頭に並ぶカタログと遜色ない代物である。目標をあえてリアルに見せることで、開発チーム全体の意思統一を図ったわけだ。

 ここから、“超小型”複合機の開発が本格的に始まる。開発体制も変えた。これまではメカ(機構)部やヘッド部、スキャナ部、メイン基板(電気系)、操作部など、各部での「部分最適化」に特に重きを置いていた。だが、従来の開発体制では一気に40%もの小型化は難しいと判断し、お互いに情報を密に共有しながら連携しながら設計に挑んだ。例えば、各部でスペースを融通し合って調整し、小型化を図っている。つまり、「全体最適」に特に重きを置いたのである。