NEDOプロジェクト「ノーマリーオフコンピューティング基盤技術開発」の第1回公開シンポジウムが2013年4月16日に横浜市で開始された。同プロジェクトでは、「ノーマリーオフ」によって、コンピュータ・システムの低消費電力化を追求する。「ノーマリーオフ」とは、システム内で真に動作すべき構成要素以外の電源を積極的に遮断することを意味している。

 シンポジウムで最初に講演したのは、このプロジェクトのリーダーを務める東京大学の中村 宏氏(大学院情報理工学系研究科 システム情報学専攻 教授)である(図1)。コンピュータ・システムの低消費電力化を狙う手法や試みはいくつもあるが、同氏によれば、今回のプロジェクトでは、不揮発性メモリ(電源遮断しても記憶を保持)とパワー・ゲーティング(電源遮断による低電力化)の相乗効果で、低消費電力化を追う(図2)。ハードウエア技術とソフトウエア技術の両方を含む一体的なコンピューティング基盤技術の開発を目指す。プロジェクトの期間は、2011年9月1日~2016年2月29日(予定)である。

図1●講演する中村 宏氏 東京大学が撮影。
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図2●ノーマリーオフコンピューティング基盤技術開発プロジェクトの狙い 東大のスライド。
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 不揮発性メモリやパワー・ゲーティングはどちらもすでに実用化されている技術だが、ノーマリーオフという視点からは必ずしも最適な形で使われているわけではないと、中村氏は言う。そこで、今回のプロジェクトでは、不揮発性メモリと揮発性メモリの棲み分けを見直して、ノーマリオフの視点で最適なコンピュータ・システムのメモリ階層を定義する。パワー・ゲーティングに関しては、パワー・ゲーティングを適用する際の効果(揮発性メモリの消費電力削減)とペナルティ(不揮発性メモリ・アクセスに伴う消費電力の増加)のトレードオフを見極めて、効果を大きくできる制御技術を開発する(図3)。さらに、アクセス・エネルギーの小さい不揮発メモリも開発するという。

図3●電源遮断や不揮発性メモリ採用の損益分岐点 東大のスライド。
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図4●プロジェクトを2つの研究体制で進める 東大のスライド。
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 続いて同氏は、今回のプロジェクトの体制について説明した。大きく分けて、集中研と分散研からなる(図4)。前者では、東大と3つの日本企業(ルネサス エレクトロニクス、東芝、ローム)が一緒になって汎用的なノーマリーオフコンピューティング技術の確立を目指す。一方、後者では3つの企業それぞれが応用分野指向で競争力のあるノーマリーオフコンピューティングの実現を狙う。後者で担当する応用分野は、東芝が携帯情報端末、ルネサスがスマートシティ、ロームがヘルスケアである。