韓国Samsung Electronics社は、2013年3月6日、日本法人を通じてシャープにおよそ100億円を出資すると発表した(関連記事1)。シャープは、経営の致命的な危機をひとまず回避できた。一方、3月26日に予定されていた台湾Hon Hai Precision Industry社(Foxconn)からの第三者割当増資の払い込みは延期となった(関連記事2)。100億円の価値は、純資産が2000億円規模(2012年末時点)のシャープと、10兆円規模のSamsung社とでは異なる。Samsung社の出資の意図はどこにあるのか。ドイツ証券のアナリストで人気コラム「台湾・中国 中根レポート」を執筆している中根康夫氏に聞いた(関連記事「Apple神話とその崩壊」)。

ドイツ証券 株式調査部 シニアアナリスト マネージング ディレクターの中根康夫氏

シャープにとって100億円の価値は大きい。中根氏は三つのメリットを挙げている(関連記事3)。(1)約100億円のキャッシュ獲得。(2)今後の資金調達に向けた信用力向上。(3)亀山第2工場の減損処理リスクの回避。このうち(3)の「亀山第2工場の減損処理の可能性」を同氏は、従来からシャープの短期的リスクと指摘していた。

 亀山第2工場の貸借対照表の残高は、2013年3月末時点で800億円前後と予想している。このラインが埋まらず、キャッシュを生まないと判断され、例えば今後の平均稼働率が5割程度の見込みであれば、簿価の半分の400億円を減損処理しなければならない恐れがあった。今回の出資で、Samsung社からの受注が増えるという前提のもと(実際にそうなるかは別として)少なくとも同工場の想定稼働率を引き上げる形で来期の生産計画を立てることができるようになり、今期末での減損処理リスクは大幅に低下したと見ている。

 同工場の生産能力は、2013年1~3月現在で推定8万枚/月。ここで(低消費電力を強みにシャープが売り出し中の)IGZO (In-Ga-Zn-O)液晶パネルと、既存のアモルファス-Si液晶パネルを主に生産している。IGZOパネルは最大3万~4万枚/月、アモルファス-Siパネルは最大4万~5万枚/月が生産可能と見られる。しかし、実際にはIGZOパネルはピークでも2万枚/月程度と比率は小さく、アモルファス-Siパネルが大半を占めている。

 しかもアモルファス-Siパネルのうち、3万枚がSamsung社向けと考えられる。そのほとんどが32型だ。32型液晶は、コモディティ化が最も著しく儲からなくなっており、韓国や台湾のメーカーは極力生産量を減らしている。Samsung社のテレビ部門も、グループ会社(Samsung Display社)や台湾からの必要量の調達が難しくなっていることもあり、シャープに発注を増加させている。シャープは、工場稼働率を上げることを優先させ、当該案件については、おそらく営業利益ベースでの黒字化を見込まずに、(減価償却を考慮せず、手元に残るキャッシュ・フローでプラスになる)キャッシュ・コストを下限に設定し受注、生産していると見られる。