花王の加工・プロセス開発研究所は、植物由来のセルロース・ナノファイバー(CNF)を樹脂表面に薄膜状にコーティングすることで、酸素透過能などのガスバリアー性が大幅に向上する仕組みをほぼ解明したと発表した。酸素透過能などのガスバリアー性が大幅に向上する仕組みは、京都大学生存圏研究所が2013年2月27日に開催した「生存圏シンポジウム 生物が創り出すナノ繊維」の中で、発表したもの。

 花王は東京大学、日本製紙、凸版印刷と、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業「セルロースシングルナノファイバーを用いた環境対応型高機能包装部材の実用化技術開発」を平成22~24年度(2010~2012年度)などを通して、約6年間にわたって共同開発を実施し、ガスバリアー性に優れたセルロース・ナノファイバーのコーティング層の開発にメドをつけた。

 その開発成果は、2013年1月31日から3日間開催された「nano tech2013」(第12回国際ナノテクノロジー総合展・技術展)に出展したNEDOブースで公表された。バイオマス植物由来のポリ乳酸(PLA)フィルムの表面に、セルロース・ナノファイバー(直径3n~4nm、長さ100nm~数μm)のコーティング層を厚さ0.1μ~1μmで施した結果、酸素透過能が0.1ml/(m2・day・atm)と、従来の1/7000まで減らすことができたと発表した。バイオマス素材のポリ乳酸フィルム表面に、セルロース・ナノファイバーをコーティングするため、廃棄してもカーボン・ニュートラルを維持できる点が特徴である。

 花王の加工・プロセス開発研究所によると、セルロース・ナノファイバーのコーティング層の構造を陽電子消滅法によって観察した結果、「コーティング層の内部の孔径は平均0.48nmであるとの結果になった。直径0.3nmの酸素分子が簡単に透過してしまう、大きな孔径であるため、コーティング層がガスバリアー性を発揮できる理由が説明できない結果になった」(花王の加工・プロセス開発研究所)という。この実験では、樹脂には厚さ25μmのポリエチレン・テレフタレート(PET)を採用している。

 このため、直線形状のセルロース・ナノファイバーが多数集積してコーティング層を形成する構造形成モデルを計算機でシミュレーションした結果、直線形状のセルロース・ナノファイバーは互いに平行になるように、自己組織的に整列すると推論できた。さらに、セルロース・ナノファイバーが高電荷量を持つほど、またセルロース・ナノファイバーのアスペクト比が小さいほど、セルロース・ナノファイバーは自己組織的に整列し、ある程度整列したセルロース・ナノファイバーが多数集積した構造が酸素分子などのガスを透過しにくくすると推論された。