ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)代表取締役社長兼グループCEOのAndrew House氏に筆者は米国ニューヨークのロンドンホテルで単独インタビューした。「プレイステーション4(PS4)」のコンセプト、狙い、オーディオ・ビジュアル機能について聞いた。(聞き手は、麻倉怜士=評論家、日本画質学会副会長)

SCE代表取締役社長兼グループCEOのAndrew House氏(右)と筆者(左)
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麻倉 プレイステーション4が登場すると、ゲームの世界はどのように変わるのでしょう。

House氏 既に、ゲーム・クリエーターの世界が構造的に大きく変化しつつあります。それは映画制作のトレンドとよく似ています。ハリウッドの大作は多額の予算、多くの人数を掛けて、大がかりに制作されます。ゲームでも豪華な作品は、これからも残っていくでしよう。しかし、その一方で、映画には予算も少なくスタッフも少ないが、ユニークな切り口で話題を呼ぶインディの人達がいます。ゲームでも全く同じで、モバイルを中心に小規模ながら、実にユニークなゲームをつくる人たちが、ここにきて多く出現してきました。

麻倉 確かにスマートフォン対象のゲームは、ここにきて大きな人気を博しています。

House氏 ええ、プレイステーション4はインディたちのクリエイティブな能力を、モバイル(携帯型)ゲーム機だけでなく、コンソール(据置型)ゲーム機でも展開してもらおうとの狙いがあります。

麻倉 そのために、これまでのような特殊なアルゴリズムではなく、標準的な流れのアルゴリズムに変更したわけですね。開発しやすさという点で。

House氏 はい。アルゴリズムについては後ほどお話ししますが、ソニー・コンピュータエンターテンイメントとしては、トータルな意味で彼らを支援したい。私は、彼らの「冒険心」を買っています。とても面白いクリエイティブな切り口が、ゲームに新鮮な驚きを与えているからです。しかしこれまでは、メディアがパッケージだったので、製作費もかかりますし、在庫の心配もしなくてはなりません。
 しかし、われわれのプレイステーション・ネットワークを使ってもらえれば、少なくとも在庫の心配をすることなく、ユーザーにユニークなゲームソフトを届けられます。プレイステーション4はトータルでインディを応援します。別の観点でいうと、これからオンライン・ゲームの内容も変わっていくのではと思っています。

麻倉 と、言いますと。

House氏 現在のオンライン・ゲームは、戦い、競技ものが多いです。激しいプレイ内容ですが、それと違った切り口もこれから求められるのではないでしょうか。もっと簡単で、ヒューマンで、リアルな友人も巻き込めるようなオンライン・ゲームが、これから登場してくると見ています。そのような時に、据置型ゲーム機はどうあるべきかを考えたのがプレイステーション4なのです。

麻倉 私は記録機能に惹かれました。

House氏 パソコン用のゲームで流行しているもののすべてが、据置型ゲーム機に移植されるわけではありません。しかし、現在パソコンでゲームをする人たちの間で盛んなのが、自分がプレイしているゲームを動画でキャプチャーし、それを友人に送って自慢したり、共感してもらう、さらには友人の動画を見て、自分が難儀したところをどんな風に攻略してくるのかを見守る……という形の楽しみ方です。
 パソコンでゲーム画面を動画でキャプチャーし、さらにアップロードするのは面倒なステップが必要でした。ところがプレイステーション4は、パソコンと違って統合的に設計できるゲーム機です。なので、もっともっと簡単にしました。ワイヤレス・コントローラーのSHAREボタンを押すだけで、動画クリップ化とアップロードができ、すぐに友人とシェアできる機能をシステムレベルで仕込みました。

麻倉 ゲームプレイは常に録画されているから、画面の切り取りも簡単にできる。

House氏 プレイステーション4の出現と共に、ソーシャル機能を活かした、全く新しい形のゲームが出てくることを大いに期待しています。Ustreamなどのインターネット中継サービスを通じてゲームプレイを生中継することも可能なのですが、それを見ていた別の場所にいる友人が動画にコメントしたり、ネットワークを通じてキャラクターの体力を回復させるアイテムや特別な武器などを提供し進行を助ける、難局を切り抜ける助言を与える……など、友人からのゲームプレイ支援が受けられるのです。

麻倉 ソーシャルといっても、リアルな友達から助けてもらうというのが良いですね。

House氏 これは私、ソーシャル・ゲームにとって、革命的な切り口ではないかと思うんです。これから「ヒューマンもの」というか、人に貢献すると、それが得点になるといったソーシャル・ゲームが出てきそうな気がします。その時に、据置型ゲーム機はどうあるべきかを考えたのが、プレイステーション4なのです。

麻倉 なるほど。愛情、友情、共感……という価値は新鮮ですね。

House氏 それは心のつながりです。これまでオンライン・ゲームなんて……と敬遠していた方々も、このような親しみやすい切り口ですと、ぜひやってみようという、良いモチベーションになるのではないでしょうか。
 またプレイステーション4では、どこにいてもゲームに接してほしいということから、スマートフォン用の専用アプリ「PlayStation App」をつくりました。電車の中でプレイステーション4の新しいソフトが登場する情報をチェックし、家のプレイステーション4本体でのダウンロードを指令するなどというのも、広い意味でのゲーム・ワールドの楽しみだと思います。据置型ゲーム機による本格プレイだけではなく、そんな細々とした楽しみも増やしていきたい。

麻倉 プレイステーション4による新しいゲーム世界の展望はよく分かりました。次の質問ですが、プレイステーション4の開発で特にこだわったところは何でしょう。

House氏 それは何といっても「使いやすさ」です。ゲーム開発者とユーザーの双方に「使いやすい」というベネフィット(利益)を与えることに、とても注意を払いました。どちらも合い言葉が、シンプルとシームレス、ストレスレスです。開発者にはとても作りやすいプラットフォームにしました。システムの難しい点で難儀するのではなく、ストレートに、クリエイティブな部分に集中してほしいからです。

麻倉 Cellプロセサを使った「PS3」は、ゲーム開発が難しかったのでしょうか。

House氏 もちろん、使いこなしている開発者もおられましたが、難しいという声も多く聞きました。われわれはその声に真摯に応えました。Cellプロセサからx86系プロセサに替えたのは、そのためです。既にゲームメーカーさんには試してもらっていますが、これまでと全く違って「ものすごく作りやすい」と、熱狂的なコメントが多く寄せられています。メモリを8Gバイト用意したことも評価していただきました。

麻倉 これまでは相当ストレスになる部分がたくさんあったわけですから、それはゲーム開発者には歓迎されるでしょう。

House氏 ストレスを減らすことでは、ユーザーさんにもできる限り快適な環境を提供したい。前述した「SHAREボタン一発」もそうですが、「サスペンドモード」の搭載も相当、環境改善にお役に立つと思います。

麻倉 確かにこれまではゲームを途中でやめると、次に開始するとき、最初からリブートするのに時間がかかっていました。

House氏 プレイステーション4ではシステムの状態を一時保存。本体を節電状態で待機させ、再利用時にはすぐに復帰します。マルチタスキングも本格的に導入しました。システム・アップデートも、プレイしながら、バックグラウンドでダウンロードできるようにしました。作る人にも、使う人にもシンプルとシームレスを与えるのが、プレイステーション4の開発目標でした。

麻倉 ミーティングで発表されたゲーム映像で特に印象に残ったのが「Quantic Dream」の超高精細なプレイステーション4での老人の顔です。ものすごくリアルで、まるでそこに当人がいるような感じさえしました。私は、ゲームは高画質であればあるほど良いと思っているのですが、世の中には「画質はいらない」という人もいます。

House氏 それは承知しています。日本のユーザーは画質に対して価値を認めていただけますが、他地域では必ずしもそうではありません。しかし、私は映像のクオリティが単に良い悪いということではなく、高画質は新しいゲームを生む可能性があることに注目しています。ここまで高精細になると、老人の顔や目つき、肌の様子から、この老人の感情をリアルに感じ取ることが可能になります。スーパーリアリティで描かれるなら、対象への「感情移入」をゲームの題材にできると思うんですね。

麻倉 まるで、そこにいるような対象とどう向き合うかというゲームですね。ぜひ画質からくるゲーム・アイデアを期待しています。さて、肝心のオーディオ・ビジュアル(AV)機能ですが、発表会では全く触れられませんでした。

House氏 まず誤解してほしくないのですが、AV機能は無視していません。これまで以上に強化しようと思っています。ただ、発表会であれもこれもと言うと散漫になるので、今回はゲームの話に絞りました。今回はAV機能をお見せできませんでしたが、少なくともPS3で提供していたBD-ROM再生やNASNEストレージなどのAV機能は、確実に引き継ぎます。まずはゲームで地歩を固め、それができたら、次にAV機能を充実させようと思っています。

麻倉 必要なのは4K×2K対応です。テレビ放送も来年には始まりますし、NASNEなどでの記録を求めるユーザーは多いでしょう。

House氏 4K×2Kに対してはPS3同様、写真やビデオなどのパーソナル・コンテンツについては4K×2Kでの出力をサポートします。4K×2K対応BD-ROMについては、ハリウッドコミュニティの方向性がありますので、まだ何とも言えません。

麻倉 つまり、2013年末の商品化までの対応は難しいということですね。HDMIについては、2013年半ばに4K×2K/60PのHDMI規格が決まりますので、採用の可能性はありますね。ゲーム・タイトルはどうですか?

House氏 ゲーム・タイトルでは4K×2Kはありません。

麻倉 BD-ROMやDVD再生はサポートしていますが、SACDやCDはどうですか。

House氏 サポートしていません。

麻倉 まだまだこの段階では明らかにできないことが多々あると思います。ゲーム機能も大切ですが、ぜひオーディオ・ビジュアルの新時代に対応した革新的メディア・マシンという位置づけも期待したいと思います。