自動車のECU(electronic control unit)のコスト削減の基本的な考え方が変わっている。こう語るのは、デンソーで熱設計技術の開発・適用に従事している篠田卓也氏(電子技術2部 技術企画室 技術企画1課 担当係長)である。かつてコスト削減は、もっぱら部品を減らすことで実現していた。今は、設計フローの変革こそがコスト削減に重要だという。

図1●講演する篠田氏<br>IDAJが撮影。スクリーンはデンソーのスライド。(添付した写真)
図1●講演する篠田氏
IDAJが撮影。スクリーンはデンソーのスライド。(添付した写真)
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 熱設計でのフローの変革とは、試作と実験の繰り返しからの脱却を意味している。実験の代わりに、熱流体シミュレーションを実施して、コストや工数の削減を図る。筆者は、熱流体シミュレーションのECU設計への適用に関して同氏が講演するのを何度か拝聴し、紹介してきた(Tech-On!関連記事1同2同3)。この記事も同様に、同氏の講演内容である。今回は、IDAJが2012年11月16日に実施した「CAE Solution Conference 2012」の「FloTHERM Conference Day」での講演内容を報告する(図1)。

 これまで拝聴してきた講演では技術的な内容がメインだったが、今回は、「デンソーとしてその技術をどう生かしていくか」という組織的な取り組みについても同氏は多くを語っていた。同氏らが開発した技術がローカルな試みから、社内全体で活用する段階に入っていることが窺える。篠田氏らは熱流体シミュレータ「FloTHERM」(米Mentor Graphics社製)を2006年に導入した。2009年には、以前は100%だった熱実験が80%になり、20%はシミュレーションが担うことになった(図2)。

図2●熱設計の効率化ロードマップ<br>デンソーのスライド。(6枚目のスライド)
図2●熱設計の効率化ロードマップ
デンソーのスライド。(6枚目のスライド)
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 2010年には、シミュレーションの比率が50%に達した。講演が行われた2012年時点では、シミュレーションの比率が70%になっているという。これにより、熱設計の期間やコストは、100%実験の頃に比べて50%削減できた。シミュレーション比率を上げることは、今後も続け、2015年にはシミュレーションの比率を90%以上にする計画である。その時には、熱設計の期間やコストを60%削減することを目指す。ただし、実験がゼロになるわけではない。電力の測定と確認は、実験の役割として残る。一方で、設計の各種判断はシミュレーションを使って行う。