パッケージにして海外展開

 こうした中で、東九州メディカルバレー構想は、今後の医療関連産業の創出に向けた二つの特徴的な要素を備えている。すなわち、「産官学医の連携」と「海外展開(国際医療交流)」である。

 医療関連産業は世界各国での拡大が見込まれており、新たな事業の構築を模索するエレクトロニクス企業などの産業界から大きな期待が集まっている。しかし、医療関連産業を生み出し、育てていくためには、産業界の取り組みだけでは不十分である。パナソニックヘルスケア取締役技術担当・知的財産担当の岡崎之則氏は、「産官学医を一つの“パッケージ”にして、それを日本モデルとして海外に展開していくべき」と訴える。

 例えば、医療機器は医師の操作技術次第で効果が大きく変わるため、医師の手技とセットになってこそ、より価値が高くなる。つまり、優れた要素技術によって開発された医療機器には、それを実用化するための治験環境や、使いこなす医師の手技能力を高めるトレーニング環境の整備が欠かせない。こうしたものを一つのパッケージにしてこそ、海外にも展開していける強いモデルになるというわけだ。

東九州
旭化成メディカル大分工場の外観

 この観点で見ていくと、東九州メディカルバレー構想は、推進する自治体と前出の幾つかの企業に加え、大分大学医学部・工学部や九州保健福祉大学、宮崎大学医学部・工学部、立命館アジア太平洋大学などが中核を担っている。例えば大分大学は、医学部附属病院として西日本で唯一の治験中核病院であり、医療技術の研修施設「スキルラボセンター」を有している。九州保健福祉大学は、臨床工学科を有し、全国トップクラスの医療機器のトレーニング施設を保有する。

 さらに、立命館アジア太平洋大学は、約100カ国、3000人の留学生が在籍し、海外の医療従事者を受け入れている。このような特徴を持つ拠点が集積しているため、産官学医の連携と海外展開(国際医療交流)を実現しやすい環境にあるというわけだ。

求められる早期の構想具現化

東九州
旭化成の吉田氏

 構想の立案者である旭化成取締役兼専務執行役員医療新事業プロジェクト長の吉田安幸氏は、次のように強調する。「同じ目標に対して、(産官学医が)協力して仕事をする関係を築けている。さまざまな問題意識を持つ地方だからこそ、それができているのかもしれない。中央では、ここまでの協力関係はなかなか作れないだろう」。

 2012年6月6日、国家戦略担当相の古川元久氏を議長とする医療イノベーション会議は、国の成長戦略の柱と位置付ける「医療イノベーション5か年戦略」を策定した。この戦略で打ち出された施策の一端を担う場所としても、東九州メディカルバレー構想が取り上げられた。

 東九州メディカルバレー構想が優れたポテンシャルを持つこと自体は、多くの関係者が認めるところだ。同構想を新たな産業の創出に向けた日本モデルとすべく、早期の具現化が求められている。