九州大学病院リハビリテーション部の診療准教授 高杉紳一郎氏は、「第39回 国際福祉機器展 H.C.R.2012」で、医療の現場からみたゲーム機器の身体機能効果について講演を行った。手足を使うゲーム機器は、トレーニングマシンのような短期間での効果は見込めないものの、ゲームを楽しむことによる長期継続性と確実な機能効果が期待できることを示した。
高杉氏の講演は、かいかやとサイ、九州大学病院リハビリテーション部の3者で共同開発した、楽しみながら運動機能や脳機能など身体機能の活性化を図ることを目的とした機器「ドキドキへび退治II」の出展ブースで行われたもの(関連記事はこちら)。
高杉氏が最初に示したゲーム機器を使った運動機能効果測定値は、モグラ叩きゲームの1種で、出てくるワニをハンマーで叩く「ワニワニパニック」という既存のゲーム機を使ったときの敏捷性と、踏み堪えるバランス能力を計測したデータ。「柔軟性、握力、筋力、歩行速度について検証したところ、変化が見られたのはアイハンドコーディネーションという敏捷性と、前方に転ばないよう堪えるファンクショナルリサーチだった。何もしなかったグループと比べて、前者は反応時間が0.48秒から0.35秒に改善、後者は前方手伸ばしテストで18センチから23センチに伸びた」(高杉氏)という。
反応時間が0.13秒速くなるまでと、手伸ばし距離が5センチ伸びるまでに、両方とも8カ月かかったという。「1日2~3ゲーム、週に2~3回の頻度でプレイしてもらっただけだが、継続することにより身体機能が改善することがわかった。トレーニングマシンは3カ月で確実に効果があるが、高齢者にとって長期間の継続的なトレーニングは非常に難しい。ゲーム機器ならそこまで難しくはなく、長期間にわたってプレイすることで予想を超える効果があると感じた」(高杉氏)と述べた。
要介護(寝たきり)になる原因は、脳血管疾患(脳卒中)、認知症、高齢による衰弱が上位を占めるが、転倒・骨折と関節疾患を合算すると第2位になると高杉氏は指摘する。「転倒防止のための訓練は非常に重要で、前脛骨筋や大腿四頭筋などを活性化させるゲーム機器の開発をナムコ(現バンダイナムコゲームス)に提案した」(高杉氏)。それが今回発表した「ドキドキへび退治II」の開発につながったという。
同ゲーム機器の身体機能効果測定としては、表面筋電計による筋活動と脳血流計による脳活動の計測データを示した。「前脛骨筋(つま先を上げる筋肉、転倒防止に必要)、腓腹筋(踏みつける筋肉)、大腿四頭筋(踏み堪える筋肉)の1本である大腿直筋のそれぞれの表面筋電図に現れたように、すべてが振り切れており、速筋を使っていることがわかる。また、脳血流測定では、眉間の両サイドにある前頭前野(脳の活動性の調節に重要な役割を果たす部分)の血流が大きく増加した。(記憶や学習と深く関連している部分なので)惚け防止などに効果があると期待できる」(高杉氏)と評価した。ただ、脳血流に関しては、ゲームに慣れすぎるとへびが出てくる場所を予測して行動するため、脳血流は増加しなくなる傾向が出てきたという。
高杉氏は、ゲーム機器を本来のゲーム以外で活用する場合の期待分野に関するアンケート調査結果(コンピュータエンターテインメント協会が実施した一般生活者調査報告書)を紹介した。「期待する分野のベスト3は、医療とリハビリ、教育・学習、健康・フィットネス。教育や医療、環境など社会問題に対応する目的を持ったゲームを『シリアスゲーム』というが、辛いリハビリを苦痛なく継続的にできる可能性を秘めているのが、ゲーム機によるリハビリだろう」(高杉氏)と述べた。
そして、3カ月以内に身体的機能の改善効果を出すためにはトレーニングマシンが絶対的に優位性があると指摘しつつ、「われわれ医療者は効率主義にとらわれがちだが、ゲーム機器によるトレーニングのように幸福主義を満たすようなものをバランスよく組み合わせていくことも必要なのではないか」と問いかけた。
【国際福祉機器展】リハビリにおけるゲーム機による身体機能活性化を評価
効率的なトレーニング機器とのバランスのよい組み合わせが重要
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