図1 システム構成
図1 システム構成
[画像のクリックで拡大表示]
図2 試作車に「G37」を使った
図2 試作車に「G37」を使った
[画像のクリックで拡大表示]

 日産自動車は、ステアリングとタイヤを切り離し、アクチュエータでタイヤを動かすステア・バイ・ワイヤ技術を搭載した試作車を公開した(図1)。2013年内に発売するInfinitiブランドの車両に採用する計画で、「世界初の技術」(日産)となる可能性が高い。

 路面からタイヤに加わる力が直接ステアリングに伝わらず、轍(わだち)などでステアリングを取られる場面でも車両の直進安定性を高められる。加えて、ステアリングギア比を車速域に応じて可変するなど制御の自由度も高まる。

 ステア・バイ・ワイヤ技術の実用化に当たっての大きな課題が信頼性。システムの一部が故障した場合でも、タイヤが動かないことは許されない。日産は冗長系のシステムを組んで信頼性を高めた。

 試作車のベース車両としてInfinitiブランドのセダン「G37(日本名はスカイライン)」を使った(図2)。主な構成は、クラッチを搭載したコラムシャフト、DCブラシレスモータ3個、各モータに電力を供給するインバータを内蔵した電子制御ユニット(ECU)3個である。ステアリングに反力を与えるモータ1個をコラムシャフトに置く。ラックとかみ合うピニオンギアを左右の2個のモータで動かす。

 コラムシャフトは通常、クラッチで車軸と切り離してある。このため、路面からタイヤに加わる力がステアリングまで直接伝わらない。ステアリングの操舵反力は、コラムシャフトのモータでつくる。ECUやモータなどの故障時に電流を流してクラッチをつなぎ、ステアリングとタイヤを機械的に結合する。

 タイヤを動かすモータが2個あるので、仮に1個のモータが故障した場合でも残るモータでステアリングを動かせる。モータの出力は明らかにしていないが、電圧は12Vに対応する。昇圧コンバータは使わない。

 ECU3個が、それぞれを相互に監視する。3個あれば、“多数決”によりどのECUが故障したのか分かる。仮にECUが2個だと、どちらかが故障したことは分かるが、故障したECUを決められない。さらに、各ECUの間の通信に信頼性を高めやすい次世代車載LAN「FlexRay」を使った。車載LANとして標準の「CAN(controller area network)」はイベントドリブン型だが、FlexRayはタイムトリガ型のため遅延時間を計算しやすく通信の信頼性を高められる。CANよりデータ伝送速度が速いので、多くの情報も扱える。

 また、カメラをルームミラーの前に置いて車線を認識し、車線を逸脱をしないようにタイヤの切れ角を制御する機能もある。同機能については、運転者がスイッチを使い利用の有無を選べる。なおシステム全体の消費電力については、「EPSより若干増える程度」(日産)という。