Rovi社がCEATECの期間中に見せた「HEVC」符号化ソフトウエアのデモの様子。
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Motorola Mobility社がCable Show 2012で見せた「HEVC」で圧縮した動画データの再生デモ。
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 HEVCは2012年2月にドラフト版仕様であるCD(committee draft)が発行済みで、2013年1月にも標準化作業が終了する見込みだ。それに向けて、動画データの符号化/復号処理(コーデック)を担うソフトウエア開発が活発になっている(関連記事12関連記事13)。

 例えば、米Rovi社はCEATECの期間中に会場近くのホテルで、開発中のHEVCの符号化ソフトウエアを展示した。デスクトップ・パソコンを用いて704×480画素の動画データを符号化速度16Mビット/秒程度、30フレーム/秒前後でほぼリアルタイムに符号化するデモを見せた。動画配信サービスを手掛ける企業向けにRovi社が提供する、動画データのトランスコード・サービス「TotalCode Enterprise」で2013年春にも実装する計画だ。

 動画配信技術でも、MPEGが標準化を進めていた「MPEG-DASH」の国際標準化が2011年12月に決まった。DASHは「Dynamic Adaptive Streaming over HTTP」の略称で、配信プロトコルにHTTPを用いる適応型ストリーミング技術である。再生端末の画面サイズや、伝送路の通信帯域(品質)に合わせて、配信する動画データを動的に変更できることや、動画配信専用のサーバを用意しなくてもWebサーバーをそのまま配信に活用できることが大きな特徴だ(関連記事14)。

 この技術は携帯端末向けの動画配信などで主流になっているが、開発企業によって配信方式が異なっていたため、配信サーバーや再生端末でサービスごとに個別の実装が必要だった。MPEG-DASHの登場で配信方式の仕様を統一でき、配信基盤や再生端末向けの技術を開発しやすくなるとの見方が強い。

「エレクトロニクス産業は下位打線になった」

 こうした周辺技術の開発が進むことで、マルチスクリーン・サービスや、その環境を活用したソーシャル視聴のサービスを提供する基盤が整う。今後1~2年で「システムとしてのスマートテレビ」を具現化する取り組みが、世界規模でこれまで以上に本格化することは間違いなさそうだ。

ソニーの中鉢副会長は、エレクトロニクス業界の現状を「我慢の経営を強いられている」と総括した。
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 ただし、その動きの中で国内メーカーの存在感は極めて薄い。

 今回のCEATECの基調講演でソニーの中鉢良治副会長は、「かつて日本の産業界で中軸の3番打者、4番打者だったIT(情報技術)・エレクトロニクス産業は下位打線になってしまった」と語った。企業による研究開発投資の減少を指摘し、「各国は一刻の猶予もなく進んでいる」と危機感を語りかけた。「構造改革は残念ながらリストラだけが強調されがちだが、付加価値を高める生産性の向上が本質。イノベーションの強化が大切だ」(同氏)。

 ここで語られた「イノベーション」は、「技術革新」と狭義に捉えてはならないだろう。多くの機器や人をつなぐ全体のシステム、そしてユーザー体験、ビジネスモデルなど、さまざまな側面のアイデアを組み合わせて新しい革新につなげなければ、生き残ることは難しい。少なくとも、「スマート」と名が付く製品分野のほとんどはそうである。中鉢副会長が語った「リストラ」と「高付加価値」のいずれの意味でも今、国内家電メーカーの構造改革を象徴する巨大な製品カテゴリが「テレビ」だ。

 米Apple社によるスマートテレビ投入のうわさが飛び交う中、携帯端末を技術の牽引役に「テレビ」の進化は世界で急速に進む。その潮流に乗り遅れず、新しい機器やサービスを提案できるか。それともあきらめるのか。のるかそるかの決断の刻限は近づく。それが、国内家電メーカーの浮沈を占う大きなカギの一つであることは間違いない。