先進国では交通事故の減少が止まる
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交通事故減少には運転支援の範囲拡大が必要
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究極の自動運転は優秀なお抱えドライバ
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自動運転に向けた技術の実現ロードマップ
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技術以外での自動運転に向けた課題
技術以外での自動運転に向けた課題
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 日産自動車の副社長 山下光彦氏は2012年10月2日、「CEATEC JAPAN 2012」のゲスト・スピーチで自動運転に向けた日産自動車の取り組みについて講演した。講演タイトルは、「走りはじめたロボットカー ~EVが拓く自動運転の世界~」。講演は、ジャーナリストの木村太郎氏との対談形式で行われ、Center for Automotive Research at Stanford (CARS),Executive DirectorのDr.Sven Beikerと米Stanford Universityの教授、Clifford Nass氏がインターネット中継を通じてコメントを寄せる形で進行した。山下氏の発言の要旨は以下の通り。

 自動運転へのモチベーションとして、交通事故の問題がある。年を追うごとに犠牲者は増え、現在は世界で年間120万人が交通事故で亡くなっている。特に発展途上国のモータリゼーションが原因だという。一方、先進国では、犠牲者は横ばいになっている。

 日産自動車では独自に安全目標として将来的に交通事故死亡者・重傷者をゼロとする「VISION ZERO」を掲げ取り組んでいるが、その過程で見えてきたのが、人の限界だった。いくら注意して運転しても、人では防げない領域がある。先進国では、死亡者・重傷者は日産車では1995年と比較して半減しているが、近年は大幅な低下をできないでいる。日産自動車では、人を中心に置いて、人をアシストするという方向から、人にできないところをクルマが補うという方向性に舵を切らなければならないと考えるようになってきた。ただし、人の判断とクルマの判断が異なった時に、人の判断を優先するという時代は長く続くと考えている。

 自動運転によって、より快適なクルマ社会も実現する。具体的には「移動機会の拡大」「非効率時間やストレスからの解放」「拘束時間からの解放」が可能である。このうち移動機会の拡大とは、高齢者や運転に不慣れなドライバーなど、自動車で移動したいけれども、それを躊躇している利用者でも運転できるようにすることを指す。残りの二つは、自動車を運転している間は、他の生産活動ができないという問題である。

 自動運転は、ある意味、クルマの正統進化といえる。クルマの知能化と電動化が進んでいるからだ。電子制御がなかった40年前と比較し、今は高級車で60個のCPUを持つようになってきている。また、電気自動車の登場によって、駆動系までも含めて電子制御ができるようになった。今後、このまま進化していけば究極的には「優秀なお抱えドライバー」を皆が持つ時代になるのではないかと考えている。

 ただし、自動運転にはまだ課題が多い。特に一般道では人や自転車、二輪車の動きが予測できないし、雪や雨の状況ではうまくセンサで周囲を把握できなかったりする。そのため、まずは高速道路や無人の駐車場など、限定された場所で自動運転が使われるようになっていくと考えている。

 自動運転を実現するには、技術以外の課題も多い。まず、法制度の問題がある。事故を起こした場合にドライバーが責任を負うのか、自動車メーカーが負うのかといったことを解決しなければならない。さらに、細かいところでは、レーンキープ・システムのために白線が消えているところをきっちり直していくという取り組みも必要だ。この他、シミュレーションや実証実験を通じた検証もしなければならない。この際、官民学の連携が必要だ。例えば、特区を作ってある地域で自動運転を認めるとか、高速道路のあるレーンを自動運転に割り当てるなどの取り組みが必要だろう。

 家電と自動車、ITシステムが、どんどん融合している。自動走行には最先端のエレクトロニクス技術が欠かせない。これまで以上にエレクトロニクス産業と手を取り合って進んでいきたい。