LightningコネクタとiPhone 5側のレセプタクル。
LightningコネクタとiPhone 5側のレセプタクル。
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Lightningコネクタの一方の面(仮に表とする)のUSBの信号線/電源線の割り当て。
Lightningコネクタの一方の面(仮に表とする)のUSBの信号線/電源線の割り当て。
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反対側の面(仮に裏とする)のUSBの信号線/電源線の割り当て。
反対側の面(仮に裏とする)のUSBの信号線/電源線の割り当て。
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コネクタ内部でどの端子同士が結線されているかを示した図。
コネクタ内部でどの端子同士が結線されているかを示した図。
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その4から続く)

 iPhone 5の大きな特徴の一つは、従来のiPhoneで使われていた30端子コネクタを廃止して、新たに小型の「Lightningコネクタ」を採用した点だ。従来の30端子コネクタがアナログ信号の端子を含むのに対し、Lightningコネクタは「完全デジタルで、8つのシグナルを使う設計」(米Apple社)だという。ユーザーがコネクタの向きを気にせずに挿せる「リバーシブル」も大きな特徴だ。コネクタ側には表と裏に8個ずつ端子が露出しているのに対し、iPhone 5のレセプタクルには片面にしか端子がない。つまり、コネクタのどちらかの面だけを接続に使うのである。

 コネクタを変更すると、従来の周辺機器が直接接続できなくなるため、周辺機器メーカーに対する影響が大きい。30端子コネクタ向けの周辺機器をLightningコネクタで接続できるようにするアダプタをApple社が用意するとはいえ、周辺機器メーカーは新しいコネクタに向けて機器を開発し直す必要がある。

 それでもあえてApple社がコネクタを変更したのには、よほどの理由があるはずだ。そこで分解班では、インタフェースに詳しい技術者の協力を得て、Lightningコネクタの解析を試みた。

 iPhone 5には、Lightningコネクタを使ってパソコンと接続するために反対側がUSBコネクタになったケーブルが付属している。そこでまず、テスターを使って、Lightningコネクタのどの端子がUSBコネクタのどの端子と導通しているかを調べてみた。

 すると奇妙なことが分かった。Lightningコネクタの向きによって、USBの信号線の位置が変わっていたのだ。仮に、コネクタの端子の名前を右から1番、2番…と呼ぶことにする。コネクタの一方の面(仮に表と呼ぶ)では「1番GND、2番D+、3番D-、4番VBUS」と割り当てられていた。ところが、反対側の面(仮に裏と呼ぶ)では「1番GND、4番VBUS、6番D-、7番D+」になっていたのだ。電源線(GND/VBUS)の位置は同じだが、信号線(D+/D-)の位置が変わってしまっている。ちなみに、USBコネクタのVBUSはそのままではLightningコネクタとは導通していなかったが、USB側に電源を供給することで、Lightningコネクタの4番の位置に電位が現れたため、VBUSだと推定した。

 我々は当初、両面の端子は点対称になるように内部で結線されていると思っていた。そうすれば、裏返しても端子の割り当ては同じになる。実際に表裏のどの端子同士が結線されているかをテスターで調べたところ、「表裏1番同士」「表裏4番同士」、すなわち先程のUSBの電源線の部分は、点対称になるように内部で斜めに結線されていた。

 ところが、斜めではなく表と裏の端子を縦に直接結線している個所もあった。「表2番/裏7番」「表3番/裏6番」「表6番/裏3番」「表7番/裏2番」である。このうち、「表2番/裏7番」がUSBのD+、「表3番/裏6番」がUSBのD-に使われていたのだ。コネクタの内部がこのような配線になっている理由を、技術者は「信号線をクロスさせると信号が乱れるからではないか」と推測した。iPhone 5は、コネクタの表裏、すなわちUSBの信号線が「2番と3番」と「6番と7番」のどちらを用いるかを何らかの手段で判断して、USB通信を行っているようだ。

 さらに疑問も生じる。上の推測が正しいとすると、USB通信では、表裏が直結されている「表6番/裏3番」「表7番/裏2番」および表裏5番と表裏8番の合計4端子が使われていないことになる。

 台湾KGI Securities社のレポート「iPhone 5 costs up 28.7% from 4S; Lightning suppliers Cheng Uei & Hon Hai to benefit most」によると、Lightningコネクタは台湾Cheng Uei Precision Industry社(Foxlink)と台湾Hon Hai社が供給しているという。同レポートは、Lightningコネクタの端子の役割を「4端子が信号伝送、2端子がデバイスの認識、2端子が電源」と推測している。これらを総合すると、「表6番/裏3番」「表7番/裏2番」も信号線であり、5番と8番はデバイスの認識に使われているのではないかと推測される。つまり、Lightningコネクタは信号線を2系統もっており、USB通信(正確にはUSB 2.0の通信)にはそのうちの1系統だけを使っていると考えられる。

 冒頭に述べたように、コネクタはそう簡単に変更できるものではない。将来の拡張に備えて、予備の信号線を持っている可能性は十分に考えられる。「2系統の信号線を使ってUSB 3.0の高速データ転送を行えるのではないか。USB 3.0の規格に則っていないのでUSB 3.0とはうたえないが」「Lightningという名前があやしい。わざわざThunderboltを連想させる名前にしたということは、Thunderboltにも対応できるようになるのではないか」。すべて分解班の想像にすぎないが、こうしたことを考えているときが一番楽しい。今後もLightningコネクタの解析を継続し、新事実が判明した場合には改めてご報告する。

その6に続く)