─デジタル機器とインターネット技術の将来について聞きたい。ソーシャル・ネットワークとデジタル機器の連携では何が起こるか。

 これまでデジタル機器同士の連携といえば、「コネクタに互換性があるか」「OSやミドルウエアに互換性があるか」などが重要だった。

 ソーシャルの時代には、これらは問題にならない。より重要なのは、「写真やビデオをシェアしたい友人関係」であり、それを知るには外部のソーシャル・ネットワークの活用は不可欠だ。ソーシャル・ネットワークと連携できない家電は、インターネットにつながらないEthernet対応機器と同じくらい使い物にならない。

─ソーシャル・ネットワークが急速に普及する一方、Twitter社、米Facebook社、米LinkedIn社など、少数の企業が市場を寡占しつつある。

 まず、今のソーシャル・ネットワークは、あって当たり前の存在にはなったが、本格的なインフラにはなっていない。まだメールは現役だし、名刺も紙のままだ。

 ソーシャルの世界は、かつてのWebブラウザーのようにいったんモノポリー(独占)の状態になり、それからオープンへと進むのかもしれない。

─次世代を担うイノベーションが、なかなか日本から出てこない。日本はiPhone、Android、Kinectも生み出すことができなかった。

 イノベーションは、多様な人たちと一緒に製品を作る中で生まれる。日本にはハードウエアの職人はいても、「Foo Camp」(「Web 2.0」提唱者のTim O’Reilly氏が主催する完全招待制イベント)に行って議論できる技術者はいない。Foo Campでは米Intel社と米Motorola社の技術者がホワイトボードで「こうやろう、ああやろう」とアイデアを出し合ったり、Google社とAmazon.com社の検索ソフトウエア技術者がアルゴリズムについてガンガン議論したりしている。そうした場にいなければ、イノベーションは生まれない。

 韓国のSamsung Electronics社やLG Electronics社は米シリコンバレーに技術者を派遣して、こうした議論に参加している。オープン・スタンダードの時代に技術者が問われるのは、コラボレーション能力だ。言語能力の問題や、情報漏洩を恐れて技術者間の交流を規制する会社の方針、学校で理系/文系を分ける体質が、こうしたコラボレーションを妨げる壁になっている。

【お知らせ】:
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