芦ノ湖のフルHD映像
芦ノ湖のフルHD映像
[画像のクリックで拡大表示]
ICC・4K映像
ICC・4K映像
[画像のクリックで拡大表示]
フルHD映像のアップ
フルHD映像のアップ
[画像のクリックで拡大表示]
ICC・4K映像のアップ
ICC・4K映像のアップ
[画像のクリックで拡大表示]
「2012 International CES」での芦ノ湖の映像
「2012 International CES」での芦ノ湖の映像
[画像のクリックで拡大表示]

 もう一つの変化が、表現の舞台を拡大したことだ。2011年のIFAで公開した第1世代では、床の間の盆栽や床に置かれた壺の質感、部屋の奥行き感……など狭い舞台での精密化、精細表現が中心だった。ところが今回の第2世代は、舞台が圧倒的に広くなった。その典型が芦ノ湖の遠景映像だ。芦ノ湖を山の上から撮影したクリップは、2012年1月のCESで初めて公開された。バージョンでいうと0.5になる。ここでは、3隻の遊覧船の距離の違いが、こまかな水模様の違いで分かるデモンストレーションがされていた。

 今回の芦ノ湖の映像は、もっと手前に引いている。望遠レンズの焦点距離を変えたのである。前回は望遠気味で、画角が狭い。今回は、広角方向になり、画角が拡大された。遊覧船の先には山々の稜線が、さらにその向こうには無限の遠くに空と雲がある。横方向も奥行き方向も非常に広大になったパースペクティブの中で、物体同士の位置と距離関係が正確に描かれるのが、ICCの新バージョンの特徴である。それは精密描写であり、大胆描写でもある。

 さて、そうなると、重要になるのが液晶ディスプレイだ。ICC・4Kはあくまでも電気信号の処理技術であり、その性能をディスプレイが表現できなくてはならない。今回の新バージョンが感動的なのには、シャープ側のディスプレイ性能向上への努力が見逃せない。ICCの精神からして、画面全体の、あらゆる意味での均一性は極めて重要なことになる。

 そこでシャープは、今回の亀山製の60型4K×2Kパネルではユニフォーミテイに特にこだわった。直下型のLEDバックライトでローカル・ディミンング(局所輝度制御)をしている。一般のローカル・ディミンングは黒を下げるために使われるが、今回は、徹底的にユニフォーミテイを高めるために使用した。

 今回のICC・4Kの開発は「革命は垂直統合でしか生まれない」ことを教えてくれる。汎用のパネルでは、特殊に処理した信号を正しく表現することは難しい。汎用パネルにICC技術を載せただけでは全く用をなさない。ICC信号処理に最適化した液晶パネルが必要な所以(ゆえん)である。つまり「映像革命は垂直統合の場でしか生まれない」。苦境の今だからこそ大事なことだ。

 ICC・4Kの静謐(せいひつ)な動画を見ていたら、一つひらめいた。「映像には静止画と動画の中間領域がある」ことだ。芦ノ湖の映像は静止画のようだが、実は動画である。よくよく見ると、遠景の遊覧船がわずかに動く。しかし、もしこれが1枚の静止画なら、臨場感や眼前感は全くない。のっぺりとした写真が、そこにあるだけだ。ICC・4Kでは、1秒間に60枚の静止画が連続して再生されている。1枚1枚に空気の様子や、光の当たり具合が微妙に違う静止画が連続再生され、まさに臨場感や眼前感につながるのである。つまり動画でないと、そのような感情は表現できない。ここから絵画でも映画でもない「静止する動画」という新しい芸術が生まれる気がする。