タイトル

  「ティロンティロン、ティロンティロン。強い揺れに警戒してください」─。テレビやラジオから突然流れだす警告音。地震の揺れを直前に知らせる、「緊急地震速報」だ。2011年3月11日に発生した東日本大震災以降、この音を聞くと  思わずビクッと身構えてしまう方も多いのではないだろうか。

 緊急地震速報は、気象庁が提供している警報の一種である。地震の最大震度が5弱以上と推定される場合に、震度4以上の強い揺れの可能性がある地域に向けて報知される。

 警報の配信回数は、東日本大震災発生時から4月28日正午までの間に70回に上った。2009年の配信回数はたった3回で、2010年も5回にすぎなかったことを考えると、今回の震災の規模の大きさがうかがえる。

 注目を集めるようになった緊急地震速報だが、果たしてどのような仕組みでシステムが運用されているのか。本稿ではここに焦点を当て、緊急地震速報の現状を紹介する。

2006年に実用化を開始

 緊急地震速報のサービスは、2006年に企業向けに開始された。2007年10月からは、一般消費者向けのサービスも始まっている。

 仕組みはこうだ。地震の初期微動であるP波(primary wave)を気象庁と防災科学技術研究所が各地に配備した地震計で捉え、主要動であるS波(secondary wave)が来る前に速報する(図1)。P波の速度は一般に約7km/sとS波(約4km/s)よりも速く、この到達時間の差を利用して早期警戒に役立て るのだ。P波のデータを分析することで地震規模や到達範囲を気象庁が数秒程度で推定し、当該地域に警報を発している。

図1 緊急地震速報の仕組み
図1 緊急地震速報の仕組み
震源近くで地震波(P波、初期微動)を測定して震源や規模、震度などを推定する。地震による強い揺れ(S波、主要動)が始まる前に速報し、テレビやラジオ、携帯電話機、防災行政無線、専用受信端末などに配信する。

 気象庁が配信する警報は、放送局が受信すると直ちにテレビやラジオで放送される。携帯電話機には、携帯電話事業者経由で配信する。基地局側から片方向の 情報通知によって、対象端末すべてに強制的に受信させる「一斉同報通知機能」(いわゆるブロードキャスト機能)を用いている。通常の通話やデータ通信とは 異なる優先経路で配信するため、輻輳やパケット集中による遅延が起きていても、影響を受けずに伝達できる。

 緊急地震速報で利用する地震計は、全国約1000カ所に設置されている(図2)。このうち、気象庁が設置する多機能型地震計は約200カ所。高見沢サイ バネティックスと明星電気が納入する。地震計の大きさは炊飯器のお釜ほどで、その中に3軸の加速度計を備える。かつては速度計を用いていたが、巨大な地震 が発生すると振り切れて測定不能になってしまうため、加速度計を使って演算する方式に改良された。

図2 地震計は全国に約1000カ所
図2 地震計は全国に約1000カ所
緊急地震速報に利用する地震計は、気象庁による約200カ所(図中の赤点)と、防災科学技術研究所が運営する高感度地震観測網(Hi-net)の約800カ所(図中の黄点)に設置されている。(図:気象庁)

浮き彫りになった課題

 緊急地震速報によって地震から身を守ることができた人がいた一方で、課題も明らかになった。まず、「外れ」が多いこと。気象庁によれば、東日本大震災後 の70回の警報のうち、44回が不適切な速報だったという。次の課題が、スマートフォンへの対応が遅れていることである。

 まず、誤報に関しては「二つの小規模な地震が同時に近くで発生すると、一つの大規模地震として認識し、予測値を出してしまう」(気象庁)ことが原因とす る。このため、システム精度を高める他、地震計を増設してきめ細かく状況を把握できるようにする。「『地震波を捉えていない』という情報も、重要なデータ になる」(気象庁)。

 スマートフォンへの対応は、大手携帯電話事業者が急ピッチで進めている。例えばソフトバンクモバイルは、2011年夏モデルから一部機種を除くすべての端末を対応させる。

 NTTドコモは夏までに、既存のスマートフォンを緊急地震速報を配信する仕組みである「エリアメール」に対応させる。2011年冬に発表予定のLTE サービス「Xi」対応のスマートフォンでは、エリアメールの新方式「ETWS」による緊急地震速報を利用可能にする。「ETWSの導入で、1~2秒は配信 時間を短縮できる」(同社 代表取締役社長の山田隆持氏)という。KDDIも「これからは全機種で対応する」(同社 代表取締役社長の田中孝司氏)と明言した。