(上)から読む

 「もはや打つ手なし」の絶望的な状況に陥った3月14日から15日にかけての深夜。東京電力は首相官邸に対し、「福島第一原発にいる約700人のうち、オペレーターとは別に免震棟で事故対応に当たる約70人だけを残し、約630人を福島第二原発に緊急退避させる」意向を伝えた*1。菅元首相が東京電力本店を訪れ、同社幹部を叱咤激励したのは、その後の3月15日午前5時頃のことである*2

 通常、福島第一原発では運転中、停止中にかかわらず、1つの原子炉につき平時の昼間で東電社員約100人、関連会社社員もほぼ同数の約100人が働いている。福島第一原発には原子炉が6つあるから、合計では約1200人に上る。一方、夜間には人がグッと減って、1つの原子炉にオペレーター6人を含む10人程度、6つの原子炉で計60人程度が従事している。つまり、原子炉の運転管理には平時に最低約60人が必要とされている。ただし、緊急事態が発生したら話は別だ。最低人員の10倍の約600人が動員されるのである。

 翻って、3月14日から15日未明にかけては、さらに大きな爆発が生じる可能性さえある、まさに緊急事態だった。それなのに必要人員の約1/10に当たる70人しか残さないという東京電力の軽い判断は、実質上の「完全撤退」と何ら変わりない。

責任能力のない原子力事業者

 「原子炉設置許可申請書」には、原発設置者の「組織力」と「技術力」が記され、審査対象になる。特に技術力については、主要な技術系幹部の経歴や、原子炉に関連する各種国家試験資格取得者の名前が列挙される。そしてこのことが、通常運転時はもちろん、事故時や災害時にソフト・ハードの両面で的確な対応能力を持つことの証しにもなっているのだ。

*1 この計画は実施されたが、その後、一時的に緊急退避した人たちの一部は戻った。

*2 ちょうどそのころ、4号機では原子炉建屋最上階で3号機からの水素の逆流による水素爆発が発生した。