つまり、原発を所有するということは、その経済的メリットを享受する一方で、原発災害というリスクを常に念頭に置き、万一の事態には十分な技術を持って対応する覚悟をしておかなければならない。東京電力はどれほど絶望的・危機的状況下に置かれようとも、どれほど犠牲を強いられようとも、政府や国民に不安を与えず、少しでも放射能放出を食い止めるべく努力し、対応人数を減らすといった「手抜き」は決してすべきではなかった。東京電力が「完全撤退」の意図を首相官邸に伝えたことは、原発を運転管理する能力がないことを自ら露呈させたに等しい。ならば、福島第二原発、そして柏崎刈羽原発も、即刻廃炉にしなければならない。

 東京電力は、電力会社として世界最大級の発電規模・経営能力・人材を誇る優良企業である。その東電が「完全撤退」を意図したとなると、あらゆる面で東電より劣る他の国内電力会社も、同じような事態に対峙したときには東電と同様の決断をする可能性は高い。そうであるならば、日本には原発に責任を持てる組織が存在しないことになり、東京電力管内だけではなく日本のすべての原発を即刻廃炉にしなければならないことになる。

 事故終息に努めず、国民の命をないがしろにした今回の「完全撤退」問題は、東電だけではなく、高速増殖炉「もんじゅ」(原型炉)を含めた日本の原発所有者全体の問題に他ならない。

危機管理能力なき日本の中枢組織

 政府事故調査委員会は、「官邸は頻繁に発電所への介入を繰り返し、指揮命令系統を混乱させた」「混乱を防ぐという名の下、情報を出す側の責任回避に主眼が置かれ、住民の健康と安全確保の視点が欠けていた」(2012年6月10日付『朝日新聞』)という見解を示した。