ところが、地震から約40分後の津波の襲来が状況を一変させた。最後の命綱、非常用ディーゼル発電機が機能を喪失し、ステーション・ブラックアウト(全交流電源喪失)に陥った。経験的に、こうした事態がまれに発生することが知られているため、直流電池電源が設置されている。とはいえ、設計上の連続利用時間は約8時間にすぎず、しかもこの間、安全が確実に担保されるというわけではない。

米研究報告書が語るステーション・ブラックアウトの結末

 ステーション・ブラックアウトが発生したら、どうなるのか。米原子力規制委員会の研究報告書『NUREG-1150(1990)』によれば、例え幾つかの安全緩和系*1が機能しても、2時間半から3時間後には炉心溶融(コアメルト)が始まる。しかも安全サイドで考えた場合、ステーション・ブラックアウト発生後1時間以内に商用電源か非常用ディーゼル発電機のどちらかが回復しなければ、溶融した炉心が原子炉圧力容器の底へ落下するメルトダウン、さらには底を貫通するメルトスルーへと進行してしまう。

 残念ながら、福島第一原発では商用電源も非常用ディーゼル発電機も1時間以内に回復することはなかった。前者は地震の影響で電線が倒壊したため、後者は津波の影響で海岸近くに設置されていた3系統の海水冷却ポンプ(非常用ディーゼル発電機冷却系、炉心残留熱除去系、サプレッションプール熱除去系)が破壊されたためだった。

 加えて、津波が原子炉建屋やタービン建屋に押し寄せ、地下に設置されていた直流電池電源の一部も機能を喪失。その結果、1号機の安全緩和系の1つである緊急炉心冷却装置の蒸気駆動の高圧注入系(HPCI)が機能を失った*2。緊急策として3月11日深夜に搬入した交流自然冷却ディーゼル電源車も、原子炉建屋内の浸水による電気系統の異常により給電できずじまいだった。

*1 安全緩和系は、1号機では圧力調整機能を担う非常用復水器(IC)や緊急炉心冷却装置の蒸気駆動高圧注入系(HPCI)、2号機と3号機では緊急炉心冷却装置の蒸気駆動の隔離時冷却系(RCIC)と、同じく蒸気駆動の高圧注入系(HPCI)となる。

*2 HPCIは交流電源を必要としないものの、幾つかのバルブを開閉するために必要最低限の直流電池電源が必要となる。