国会事故調査委員会(委員長:黒川清氏)は、海江田万里元経済産業相、枝野幸男元官房長官、菅直人元首相、清水正孝元東京電力社長の証言を基に、「東電が『全面撤退』を検討した形跡は見受けられない」(2012年6月10日付『朝日新聞』)という見解を示した。東京電力が2012年6月20日に公表した『東電事故調査報告書』でも、完全撤退は否定されている(2012年6月21日付『朝日新聞』)。

 果たして、そうだろうか。筆者は、実質的には政府判断通り「全面撤退」だったと考えている。このことを、もう一度あの日に戻って検証してみたい。

地震から約40分後の津波の襲来が状況を一変させた

 原発の安全は、電源が維持されて初めて確保される。しかし、落雷や地震などの自然災害が発生すれば、商用電源(外部電源)を喪失する恐れがあり、その対策として非常用ディーゼル発電機(内部電源)が設置されている。福島第一原発で2台、同じ東京電力管内の柏崎刈羽原発では3台だ。いずれも複数台用意しているのは、起動失敗の確率を下げるためである。

 実際、商用電源が喪失したことを知らせる信号を受けると、非常用ディーゼル発電機は自動的に起動する。この起動を確実なものにするために、電力会社は毎月1回、模擬信号と模擬負荷を利用して規定電力が供給されることを確認している。万一、非常用ディーゼル発電機に異常が見つかれば、保安規定に基づいて原子炉を即刻停止させなければならない。非常用ディーゼル発電機は「最後の命綱」であるが故に、これほど厳しく管理されているのである。

 こうした非常用ディーゼル発電機や商用電源が機能していれば、特定の機器の多重故障や人為ミスといった特殊な要因が重ならない限り、原発で想定される事故の多くは安全に終息する。2011年3月11日の東日本大震災の時には当初、福島第一原発の商用電源は喪失したものの、非常用ディーゼル発電機は正常に機能した。ここまでは、設計通りだったといえる。