文部科学省は2012年6月29日、「元素戦略プロジェクト 研究拠点形成型」の研究拠点4カ所を採択したと発表した。文科省研究振興局の基盤研究課ナノテクノロジー・材料開発推進室によれば「レアアースやレアメタルなどの希少元素を用いない、革新的な希少元素代替材料の創製」を狙ったものという。

 同元素戦略プロジェクトでは、日本の産業競争力向上に大きな効果を発揮する材料領域として「磁石材料」「触媒・電池材料」「電子材料」「構造材料」の4分野を選定し、2012年2月6日~3月26日に共同研究拠点を対象分野ごとに公募した(記事「文科省、新施策『元素戦略プロジェクト研究拠点形成型』の概要を公表」を参照)。この公募への応募案件を、文科省が設置した元素戦略プロジェクト審査検討会が書面と面接により審査し、採択拠点を決定した。

 4分野の採択拠点については、「磁石材料」分野では、拠点設置機関に物質・材料研究機構(NIMS)を、その代表研究者に物質・材料研究機構の磁性材料ユニットの広沢哲特別研究員を選んだ。磁石性能に本質的に関与する各元素の役割を基礎物理にさかのぼって解明し、Nd-Fe-B(ネオジム・鉄・ホウ素)系などの希土類(レアアース)永久磁石と同等の性能を持ちながら、希少元素を用いない新磁石開発を目指す。

 「触媒・電池材料」分野は、拠点設置機関に京都大学を、その代表研究者に京大大学院の田中庸裕教授を選んだ。触媒と2次電池部材について、固体と気体、液体とのそれぞれの間での元素の複雑系反応を基礎科学と実験化学の緊密な連携を通じて解明し、貴金属や希少元素を用いない代替材料の開発を目指す。

 「電子材料」分野は、拠点設置機関に東京工業大学を、その代表研究者に東工大フロンティア研究機構の細野秀雄教授(応用セラミックス研究所兼任教授)を選んだ。電気電子産業を支える半導体、透明電極・伝導体、誘電体などの電子部材に対して、基礎物理、計算科学、先端解析技術を協働させて材料開発に有効な新しい材料科学を構築し、希少元素や環境負荷の高い元素を用いない代替材料の開発を目指す。

 「構造材料」分野は、拠点設置機関に京都大学を、代表研究者に京大大学院の田中 功教授を選んだ。材料の“強度”(変形への抵抗)と“靱性”(破壊への抵抗)といった相反する性質を基礎科学段階から解明し、社会基盤を支え、安心・安全に不可欠な構造材料として、希少元素を抜本的に削減した代替材料の開発を目指す。

 4分野の採択拠点を率いる、各代表研究者には「卓越した物質観を持ち、強力なリーダーシップを発揮しながら、物質の機能を支配する元素の役割の理論的な解明から新材料の創製、特性評価までの研究開発を、拠点を形成する共同研究組織で一体的に推進できる人物を選んだ」という(ナノテクノロジー・材料開発推進室)。

 「元素戦略プロジェクト 研究拠点形成型」の研究開発期間は10年間で、平成24年度(2012年度)予算は22.5億円の見通し。「磁石材料」「触媒・電池材料」「電子材料」の3分野には1年間当たりに6~7億円を支給する予定で、「構造材料」分野については、当面、電子論グループによる新しい原理の探索を実施する計画なので、支援金は同約1.5億円の見通しという。