Daniel Yang氏(Adlink Technology Inc. President)
Daniel Yang氏(Adlink Technology Inc. President)
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田中一義氏(ADLINKジャパン 代表取締役社長)
田中一義氏(ADLINKジャパン 代表取締役社長)
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組込みシステム開発技術展(ESEC)の同社のブース
組込みシステム開発技術展(ESEC)の同社のブース
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 世界の主要市場で景気が後退している中で,台湾ADLINK Technology Inc.は着実に業績を伸ばしている。そこで同社PresidentのDaniel Yang氏と同社日本法人ADLINKジャパンの代表取締役社長を務める田中一義氏に,事業の現状や今後の展開などについて聞いた。

 ADLINK Technology社が手掛けている主な製品は,産業用組み込みボードや計測用ボードである。さらに,これらの技術を基にしたOEM/ODMサービスを提供している。最近の同社の業績は、世界経済に不透明感が広がっているにもかかわらず前年同期の数字を上回っている。「2012年第1四半期の売上額は対前年同期比9%増の約4500万米ドルだった」(Yang氏)。ただし過去10年間の対前年同期比は20%を超えていた。このためこの結果を、それほど高く評価しているわけではないとも語る。

 売り上げを牽引している分野は,主に「テレコミュニケーション」「メディカル」「ミリタリ/防衛」の三つ。「テレコミュニケーション関連では,インド,北米,欧州の市場でAdvanced TCA(telecom computing architecture)関連製品の売り上げが好調だった。メディカル機器向けの製品やソリューションの売り上げも,ゆっくりだが着実に伸びている」(Yang氏)。

 メディカル関連市場は,今後も継続して成長する可能性があると同氏は語る。このためメディカル関連の市場開拓に向けた戦略も着々と強化している。「まず取り組んでいるのが,メディカル機器に関連する国際規格への対応。既存製品を国際規格に対応させる取り組みを進める一方で,メディカル関連製品の生産に備えて医療機器の品質保証に関する国際標準規格ISO13485の認証を取得した製造設備も整備した」(Yang氏)。

世界市場攻略の基地を顧客に提供

 同社が事業を展開するうえで,いま重要な役割を担っているのが、2010年6月に上海に開設した大型拠点「Shanghai Operations Center(SHOC)」である。2万9878m2と広大な敷地の中に,製造ラインとともに、EMI(electromagnetic interference)試験、振動試験、温度試験などを実施できる設備を整備。さらに顧客企業の開発技術者が常駐するためのスペースも用意されている。つまり、ここで製品開発から生産まで一貫して対応できるようになっている。「SHOCは,単なる生産拠点ではない。顧客と共同で製品の付加価値を創造する“ジョイント・デベロップ・センター”だ」(Yang氏)。

 すでにSHOCを拠点とした製品開発プロジェクトが多数進行しており,その中で日本企業が関連するプロジェクトの数も40件を超えていると言う。「海外市場開拓に力を入れる日本企業が確実に増えている。特に多くの消費者を抱える中国市場を狙う企業にとって,現地の拠点を構えることは有利。そこでSHOCが役に立つ。中国を基点にして,新興国市場に事業を展開することを考える企業も今後は増えるだろう」(Yang氏)。

三つの市場をバランスよく開拓

 日本市場における同社のビジネスについて田中氏は,比較的好調に推移していることを明らかにした。「従来から手掛けてきた半導体製造装置やFA関連装置に加えて,最近力を入れているメディカル機器に関連する売り上げも着実に増えている」(田中氏)。現状では,三つの分野の売り上げは,ほぼ均等になっていると言う。「特定の分野に売り上げが偏ると,その市場の動きに業績全体が左右されてしまう。三つの分野の事業をバランスよく成長させることは,業績の安定を図るうえで重要」(田中氏)。

 それぞれの分野で売り上げの中心となっているのは「COM Express」仕様に準拠したCOM(computer on module)だという。「日本法人の売り上げのかなりの割合をCOM Express関連製品が占めている」(田中氏)。COM Expressは,産業用ボードの標準化団体であるPICMGが定めた標準規格の一つで,PCI Express準拠の高速シリアルバス・インタフェースを搭載しているのが特長だ。「COM Expressを利用する手法は,産業用組み込みシステムの分野で主流になるだろう。産業用組み込みボードには,様々な種類のインタフェースを備えた製品があるがPCI Expressは,これらを包含できるだけの高いパフォーマンスを発揮する。かねてから主張している通り,COM Expressの普及とともに,産業用組み込みシステムにおける『バス』の概念はなくなるだろう」(田中氏)。