写真◎西本利一氏。1960年5月生まれ。1984年早稲田大学理工学部を卒業後、東京製鉄に入社。1998年岡山工場製鋼部長代理に就任。同工場製鋼部長兼圧延部長などを経て2004年に高松工場長。2006年から現職。
写真◎西本利一氏。1960年5月生まれ。1984年早稲田大学理工学部を卒業後、東京製鉄に入社。1998年岡山工場製鋼部長代理に就任。同工場製鋼部長兼圧延部長などを経て2004年に高松工場長。2006年から現職。
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 東京製鉄が開発した電炉鋼板がリコーの複合機に採用されることが決まった(Tech-On!関連記事)。
 電炉鋼板とは、鉄スクラップを原料にした鋼板のこと。鉄鉱石から造る高炉鋼板と比較して価格面、環境面で優位に立つものの、これまでは品質に劣るとされてきた。
 しかしリコーの本格採用は、電炉鋼板の品質が高炉鋼板に追いついたことの証しに他ならない。約2年前、東京製鉄社長の西本利一氏は「日経ものづくり」のインタビューに答えて、「(電炉鋼板の)品質は高炉鋼板に遜色なし」と自信を見せていた(写真)。

 以下、「日経ものづくり」2010年6月号の特集「鋼が設計を変える」に掲載した、当時のインタビューを紹介する。

――1620億円を投じた田原工場(愛知県田原市)が完成しました。

 田原工場の圧延工場は2009年11月の稼働です。他工場からスラブという半製品を運び、現在は月産約1万t規模で生産しています。さらに2010年5月末には製鋼工場が稼働するので、まあ6月から本格稼働と考えてください。田原工場の生産能力は年間250万tありますが、今年(2010年6月~2011年3月)の生産量は50万tくらいとみています。

――高炉メーカーの牙城だった薄板分野に本格進出するわけですね。

 薄板自体は今も、既設の岡山工場で月産10万t近く生産しています。田原工場の立ち上げ時は、岡山工場の生産分を移管しながら増量を図ることになります。

 現在の当社の薄板販売は、建築・建材向けが中心ですが、それは我々がそういう売り方をしてきたから。コイルセンター経由で自動車分野や白物家電分野でも使っていただいていると聞いています。ただ、量はそれほど多くありません。

 田原工場は自動車用鋼板の工場と見られがちですが、いきなり自動車用途がメインになるわけではない。自動車メーカーの購買部門で話を聞くと、「田原工場でできました。じゃあ製品の品質をテストしよう」となっても、「実際に販売につながるまでには3年かかりますよ」と言われる。だから腰を据えてやっていきます。

――スクラップを原料に製造する電炉鋼板は、品質がバラついて自動車用途には使えないという指摘もあります。

 品質には自信があります。岡山工場の薄板は、既に三菱自動車の軽自動車「eKワゴン」のセンターピラーの内板として、2002年ころに採用されました。その後スクラップ価格の高騰があって、価格面で双方にメリットがなくなり、取引は終了しましたが、品質や納期の面では問題は全くありませんでした。別の自動車メーカーの技術部門や電機メーカーでも品質の評価を受けましたが、高炉鋼板と比べて遜色ないという結果をもらっています。

 我々が狙っているのは、引っ張り強度で言うと、270M~440MPaくらいの比較的柔らかい薄板です。これが自動車用鋼板の約半分を占めます。つまり、汎用品に勝負を賭けている。汎用品に安くて高品質の鋼板がないと、自動車メーカーだって新興国市場で闘える車を造れません。

――低価格が魅力と言われています。

(次ページへ続く)