安田氏(左)と岡村氏
安田氏(左)と岡村氏
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図1
図1
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図2
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図3
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図4
図4
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「デジタル・スピーカー」の技術を持つTrigence Semiconductor社の二人の技術者に、アナログとデジタルの新しい関係を聞いた。インタビューの後、同社は、米Intel社の投資部門Intel Capitalから出資を受けた(関連記事)。

振幅の変化が連続的でアナログ的な動作をするスピーカーを“デジタル化”しているとは、どういうことか。

 「スピーカーをD-A変換器として使っている」と、同社取締役の安田彰氏はデジタル・スピーカーの原理を説明する(図1)。

 既存の一般的なスピーカーは、一つのコイルで振動版(コーン紙など)を動かして空気を振動させる。振動を制御するのは信号のレベル(電圧の高さ)だ。今回のスピーカーは、いくつかのコイルを使って音のパワーを制御している(図2)。具体的には、複数のコイルを入力データ(音源)に応じてオン/オフさせ、入力インピーダンスを離散的に変えている(図3)。信号の電圧レベルは同じだがインピーダンスを変えることで出力パワーを制御する。インピーダンスの切り替えは、可聴周波数帯域に対して十分に高い周波数で行うことで、実際に耳に聞こえる音はなだらかになる。切り替えに伴って生じる高周波雑音は、デルタシグマ型A-D/D-A変換器(関連記事)と同様、高域遮断フィルタで取り除く。

 利点は、扱う信号の電圧を低くできること(図4)。既存のスピーカーに与える電圧は、ミニコンポで30~40Vなど、数十Vになる。半導体やコンデンサなどの電子部品は、自ずと高耐圧品となっていた。一般的な民生機器向けの安価な電子部品は使えない。昇圧回路による損失が発生することになる。一方、デジタル・スピーカーは、デジタル回路で扱う3V未満の電圧で駆動するため、高耐圧部品や昇圧回路は不要となり、コストと消費電力を削減できる。

 デジタル・スピーカーでは高い音質も期待できる。一般には長いケーブルを使うアンプとスピーカー間の配線を通すのがデジタル信号となるため、雑音がそのまま音質を劣化させることがない。ケーブルに乗る雑音によってデータの誤り率が劣化する恐れはあるが、誤り訂正やリピーターなどを使わなくても、数mのケーブルでは問題にならないという。原理的には、インピーダンスを切り替える周波数を高くすれば、デルタシグマ型A-D変換器でサンプリング周波数を高くするのと同様に、雑音と歪みを低減できる。