「残念ながら、次世代無線通信システム(の主要部)に日本の技術は使われません。また、スマートフォンに日本製部品が4割近く使われているという調査結果がありましたが、10数年前の携帯電話機では8割でした。凋落も甚だしい」。このように嘆くのは東北大学教授の加藤修三氏。旧NTT時代に携帯電話やPHS(パーソナル・ハンディホン・システム)の研究開発をリードし、国内外で大手機器メーカーとベンチャー企業で経営に携わった経験もある加藤氏には、「日本の無線通信業界は終わった」と映る。加藤氏にワイヤレス業界と技術者について聞いた。(聞き手は、三宅 常之=Tech-On!)
日本のワイヤレス業界の課題の一つにシステム技術者がいないことを挙げています。
特にアナログ技術者の“守備範囲”が狭いと感じます。会社としてはシステムをつくれないと製品化できません。RF(無線周波)信号を扱うアナログ回路は無線システムのごく一部に過ぎないので、そこだけを良くしても売れません。アナログ技術者にはその点が分かっていない。日本のワイヤレス業界が縮小している一因はここにあると思います。
NTT時代にこんなことがありました。携帯電話機を開発している私のもとへ、社内で開発中のアナログ・チップを使ってほしいという話が持ち込まれたのです。その部門の技術者と話をしたところ、技術者は携帯電話のシステムを総合的には考えていないようでした。「要求仕様を言ってくれたらそれに合わせて作る」という。「ならば、効率(電力付加効率)が100%のアンプをつくれるか」と聞きました。当然「それは無理だ」というやり取りになりました。
これでは、大きなインテグレーションはできません。技術者がシステム全体を見ようとしないのはデジタル回路でも同じですが、アナログ技術者の方がひどいと思いますね。結局、そのアナログ・チップは、使いませんでした。
携帯電話機市場での存在感は小さいものの、スマートフォンには日本メーカーの電子部品が多数使われています。
「日本製が4割“も”あるのですごい」という見方がありますが、馬鹿ではないですか。10数年前の携帯電話機には日本製が8割載っていたのですよ。日本の電子部品業界の凋落は甚だしい。
次世代移動通信システム(2010年代後半のサービス開始が見込まれる「第4世代移動通信システム」)として「LTE-Advanced」と「WirelessMAN-Advanced(WiMAX2)」をITU(国際電気通信連合)が認めました。しかし、これらの主要技術は米Qualcomm社、米Intel社、韓国Samsung Electronics社など海外勢のものです。中核部に日本の技術は使われません。