無線LANでは端末に搭載するチップで米国メーカーが高い市場シェアを握っています。
無線LAN業界で日本は周回遅れの状態です。競争できるような製品を今から投入するのは難しい。消費電力を下げる技術は、ノウハウの蓄積なので開発期間で決まります。後発では敵いません。
私自身、こうした状況を何とかしたいと思って会社を立ち上げようとしたことがあります。その際、米国における人材獲得競争を目の当たりにしました。Qualcomm社が米Atheros Communications社を買収する発表をした翌日、競合する米Broadcom社はAtheros社の本社前にオフィスを構えました。目的は、Atheros社の技術者を採用することです。これは、技術者がほしかったわけではなく、優秀な技術者がQualcomm社に移籍することを防ぎたかったからだといいます。一般に米国の無線通信業界では、末端の技術者でも年間15万米ドルはもらっている。もちろん、これと別にストックオプションがあります。私は、ここまで激しい人材獲得競争をしているワイヤレス業界で技術者を集められず、会社設立をあきらめざるを得ませんでした。
ワイヤレス業界で必要な人材とはどんな人でしょう。
無線部とソフト(制御部分、MAC層)の両方が分かる人間です。無線分野で投資ファンドから出資を募れるような会社をつくるには、ハードウエアとシステム(ソフト)の両方が分かる技術者が最低でも4~5人はいないと土俵に上がれません。
競争力のあるSoCを開発するのに100人のプロセス技術者を集めてもダメで、どんなIPコアを載せるべきかが分かる技術者がいないと無意味なのと同じです。必要になるのは、システムが分かる技術者です。
ビジネス・ケースがつくれることも求められます。「このアンプは優れているから、どこかが買ってくれるかもしれない」ではダメです。「このアンプを使ったシステムの特徴はここにあって、どこに売れる」と説明する必要があります。