東北大学教授の江刺正喜氏
東北大学教授の江刺正喜氏
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図1
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図2
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図3
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 「日本は技術で勝っているとよく言いますが、そうなのでしょうか」。技術力はあるのに経営に問題があって、半導体分野などで日本企業が国際的に窮地に立たされるようになった。そんなよく聞く論調に疑問を投げかけるのは、MEMS(微小電子機械システム)分野の研究で世界のトップを走り、国内外の多数の企業と共同研究を進めている江刺正喜・東北大学教授だ(関連記事)。

 ここ10年ほどの間に多くの企業がMEMS分野の市場に参入した。狙ったのは、スマートフォンなど携帯機器に搭載される加速度センサやマイク、プロジェクタ向けミラー・デバイス(DMDなど)である。これら多くの応用機器で、現在大きく売り上げているのは欧米メーカーだ(図1、関連記事)。日本メーカーの存在感は小さい。

 このような“日本企業完敗”の現状について説明するため、江刺氏はこんな例を挙げる。民生機器向け加速度センサ市場で大きな市場シェアを取っている伊仏STMicroelectronics社と独Robert Bosch社が採用している製造プロセス技術エピポリ(epi-poly)についてである。

 「エピポリは、スウェーデンUppsala Universityが研究を始めて、独Fraunhofer Institutesが仕上げたもの。それをSTとBoschが採用した。さらに仏Cea Leti MINATECが協力支援している」。

 欧州では、新しい技術を創出し、それを産官学の連携で実用化する仕組みが機能している。それが、STやBoschの成功の礎になっているというのだ。STはエピポリを「THELMA」と名付けた自社技術に昇華している。エピポリは高精度の動き検知に必要なSi厚膜の生成に適した技術だ。これに対して日本については、民間企業を成功に導くような技術創出力や、その技術を育てていく仕組みの面で不十分と、江刺氏の目には映る。