ワイヤレス給電システム技術部門委員会 幹事の横井行雄氏
ワイヤレス給電システム技術部門委員会 幹事の横井行雄氏
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 電気自動車(EV)の充電に、ワイヤレス給電技術を適用し、非接触で充電するための技術開発が進んでいる(Tech-On!の関連記事)。開発に並行し、標準化の議論も具体的になってきた。日本国内で、EV充電に向けたワイヤレス給電技術の検討などを進めているJSAE(自動車技術会)ワイヤレス給電システム技術部門委員会 幹事である横井行雄氏に、話を聞いた。


――JSAEのワイヤレス給電システム技術部門委員会は、どのような活動をしているのか?

横井氏  我々は、参加企業間で標準化に関わる話題提供を行い、各社間で情報共有することを主眼としている。標準化そのものを行うわけではない。

 この委員会を立ち上げたのは、「ワイヤレス給電システムに関する要素技術力は、日本が依然として優位にあると考えられるが、オールジャパン体制で臨まないと、諸外国の後塵を拝し、将来に禍根を残す。このため、関係する人々をできるだけ広く集め、情報交換と未来を見据えた議論を行うことで、国益に寄与する技術サロンとして活動する」という思いからだ。これは、同委員会の委員長である東京大学 新領域創成科学研究科 教授の堀 洋一氏の設立趣旨である。

 同委員会には現在のところ、30名の委員と21名のオブザーバが参加している。トヨタ自動車や日産自動車、本田技術研究所など自動車メーカーのほか、パナソニックや東芝、昭和飛行機工業、長野日本無線などの装置メーカー、そして大学や研究機関などが加わっており、「オールジャパン体制」で活発に活動している。毎月の定例会で2~3件の話題提供を行いながら課題点を整理したり、試作システムの見学会を開催したりしている。また、日本自動車研究所(JARI)の非接触充電標準化SWGとリエゾン関係にあることから、JSAEで出たトピックを情報提供したりしている。


――現在、EVの非接触充電システムの標準化には、どのような団体が取り組んでいるのか?

横井氏 まず海外では、SAE(米自動車技術会)の取り組みが活発だ。SAEの「J2954」という部会で、EVの非接触充電方式に関する議論がなされており、ここには欧米のみならず、日本の自動車メーカーも参画して協議している。さらに安全規格に関しては、米UL社の「Subject 2750」という取り組みがある。


 またIEC(国際電気標準会議)では、「TC69」のWG4において審議されており、こちらはISO(国際標準化機構)の「TC22」のSC21(電動車両)との間で協調関係がある。


 一方で日本では、JARIに非接触充電標準化SWGが設置されており、前述のIECなどの日本における審議機関として活動している。JARIはSAEともMOUを締結した協力関係にあることから、SAEでの活発な討議内容は逐一報告されているようだ。


――EVの充電にワイヤレス給電技術を適用する上での検討すべき点は?

横井氏 検討課題は無数にある。例えば安全・安心をいかに確保するのか、どのような伝送方式を採用するのか、また位置ずれにはどう対応するか、このほか給電電力の値やEMI/EMC、さらには評価方法など枚挙にいとまがない。

 なかでも、これらの項目のすべてに関わってくる重大なポイントが「周波数」である。どの周波数帯を使うかによって、安全・安心や給電電力、EMI/EMCなど多くの項目に影響してくるからである。

 既に応用が始まっている携帯機器と異なり、EVの非接触充電では、1kW~10kWといった大電力を給電する。このため、どこの周波数を活用するかということが、システム構築の出発点となる。

 しかし、周波数を専用で用意するというのは、非常に時間のかかる作業だ。また、もしも国際的に共通の周波数帯を確保しようとすると、WRC(世界無線会議)で議論するといった大掛かりなものになってしまい、さらに時間がかかる。このため各標準化団体は、まずは周波数の議論をペンディングしながら、取り組みやすい課題点から議論を始めているようだ。


――既に、有力な周波数帯は見えてきているのだろうか?

横井氏 少し前までは、13.56MHz帯のISMバンドを活用するという案が有力だった。しかし最近では、自動車メーカーなどがより低い周波数帯の活用に注目しているようだ。例えば、かつては10MHz前後を志向していた米WiTricity社も、現在では145kHz近辺を探っているというウワサもある。一方で米Qualcomm社は、6.78MHz帯の活用を目指しているという話も聞いている。


 やはりISM帯が使えればやりやすいだろうが、システムによってはそれが最適とは行かないかもしれない。周波数の議論は、今後かなり大きな課題になっていくだろう。


 ここで私が考えているのは、周波数の選択は、ワイヤレス給電が近距離での給電(いわゆる近傍界)であることから、まず各国の周波数の利用状況に応じて、他の無線利用者に悪影響を与えない範囲で選択し、実用化のための評価試験を重ねることが早期の実用化に近づくのではないかということである。


 いずれにせよ、周波数の議論には時間がかかるということは、皆知っているはずだ。そうであれば、そろそろ日本としても、周波数に関する合意形成が必要ではないかと考えている。


 JSAEの我々の委員会は、ブロードバンドワイヤレスフォーラム(BWF)とも連携している。同フォーラムでは、ワイヤレス給電システム利用に関するガイドラインなどを策定しているが、周波数に関する議論も行っている。今後EVの非接触充電に用いる周波数に関しては、BWFとも連携しながら活発な議論が必要になるだろう。またこうした議論の重要性を、日本のより多くの関係企業の皆さんに知ってもらいたいと考えている。