シリーズ全体で最適設計

 そこでWS-Vシリーズでは、開閉機構ユニットの一部部品の形状を変更するなど自動化しやすい設計を採用した。具体的には、複雑な形状の部品を分割して単純な形状にすることによって、組立工程の自動化を可能にした。一般に、部品を細かく分割すればするほど自動化しやすくなるが、「性能や強度を満たすことが難しくなる上、部品単体のコストは増える」(妹尾氏)。従って、要求性能を満足し、自動化によるコスト削減効果の方が大きくなる程度に部品を分割している。

 さらに、分割した部品については、複数の機種で共用することによってコストを削減した。「設計者が組立工程の自動化を検討することで、各機種を個別に設計するのではなく、シリーズ全体で最適になるように設計するという意識が高まった」(妹尾氏)。

 これによって、垂直6軸ロボット2台で構成されるロボットセルで開閉機構ユニットを組み立てられるようになった。パレット上に開閉機構ユニットの部品(全13個)を載せ、ロボットセルに供給するだけで済む。パレットへの部品の配置とパレットの供給は人手で行っているが、それ以外の工程は全てロボットが行う。自動化によって開閉機構ユニットの組立時間を30~40秒と、手作業の約1/3に短縮できる。加えて、40%の省人・省スペース化も実現した。福山製作所ではスマートメーターなどの新事業に着手しており、省人化で浮いた人員はこれら新事業に回す。

* スマートメーター 通信機能などを備える高機能な電力量計。電力の効率的な供給・利用や再生可能エネルギの活用を進める上で、重要な役割を担うとみられている。

日本のモデルケースに

 組立工程の自動化という課題に設計と生産技術が一体となって取り組んだことによって、自動化とは直接関係のない部分の設計でも改善が進んだと、妹尾氏は語る。「従来は設計者が描いた図面を、生産技術がほぼそのまま受け入れていた」(同氏)が、設計にムダな部分が残されたまま自動化しても、自動化による効果が薄い。

 そのため、工程の削減につながるような設計変更をこれまで以上に実施した。例えば、可動子をクロスバーに組み付ける工程では、従来は可動子をクロスバーの中に押し込み、可動子に付いているばねの足をクロスバーに引っ掛けることで固定していた。新製品では、ばねの足やクロスバーの設計を見直すことで、可動子をクロスバーに押し込むだけでばねの足が自動的にクロスバーに引っ掛かる構造にしている。

 今回福山製作所がロボットを用いた自動化に挑戦したのは、日本の工場の生産性を世界でトップクラスの水準に引き上げるためである。同製作所は三菱電機の遮断器の主力生産拠点で、国内向けだけではなく海外向けの製品も造っている。同社の国内シェアはほぼ50%と高く、他社よりも生産量が多いため、同製作所はこれまで人件費の高さなどを補って余りある生産性を確保してきた。同社は中国・大連にも遮断器の工場を構えているが、大連工場の生産品目は中国向けの小型製品など一部にとどめており、生産額も福山製作所に比べるとそれほど多くない。今後についても、当面は「福山製作所が主力であり続ける」(同製作所所長の吉永徹氏)。

 しかし、今後は中国やインド、東南アジアなどで低価格品の需要が増える他、先進国の市場でも価格への要求が厳しくなるため、生産性を一層高める必要がある。今回の自動化は、日本にものづくりを残すには何をすべきかという点で、設計/生産技術/製造が一丸となり実現したもの。この取り組みは、三菱電機だけではなく日本企業全体のモデルケースといえる。