田中耕一氏
田中耕一氏
[画像のクリックで拡大表示]
日経エレクトロニクス2012年2月6日号の特集「がんと闘う」の記事を示しながら、異分野融合の場の重要性を訴える田中氏
日経エレクトロニクス2012年2月6日号の特集「がんと闘う」の記事を示しながら、異分野融合の場の重要性を訴える田中氏
[画像のクリックで拡大表示]

 内閣官房の医療イノベーション推進室は2012年2月12日、「医療イノベーション推進シンポジウム 革新への挑戦~日本の技術が医療を変える~」を東京都内で開催した(関連記事)。基調講演として同推進室 室長代行の岡野光夫氏(東京女子医科大学 先端生命医科学研究所長)、特別講演として同推進室 特別顧問の田中耕一氏(島津製作所 フェロー)がそれぞれ登壇。両氏ともに、今後の医療イノベーションに向けては「従来の枠組み(専門領域)を超えた取り組み」がカギになると訴えた。

「先端医療を受け入れるインフラ作りが必要」と岡野氏

 岡野氏はまず、20世紀から21世紀に向けて、産業界や学界の取り組みにパラダイム・シフトが起きるとした。具体的には、取り組みの対象が次のように変化すると指摘した。すなわち、「空間→時間」「大型・大量生産→多品種・少量生産」「構造→機能」「マクロ→ミクロ・ナノ」「Invention→Innovation」、である。

 その象徴が、科学技術による難病や障害の克服、医学革命の実現であるとした。そのためには学界と産業界、行政の従来の枠組みを超えた取り組みが重要だと訴えた。

 岡野氏は一例として、同氏がかかわる東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設(TWIns(ツインズ)、2008年に開設)の様子を披露した。同氏が示した写真には、医師や獣医、企業の技術者や工学系の学生などが一体となって研究に取り組む様子が映し出されていた。同氏は、「同じ目的に対して異なる手法でアプローチし、シナジー効果を生みだす研究体制だ」と説明した。

 講演の後半では、岡野氏の専門領域である再生医療の最新動向について触れた。急速に進歩している再生医療の技術を発展させていくために、同氏はインフラやルール、許認可制度などの整備が必須だと訴えた。「かつて馬車から自動車社会に移行する際には、自動車の開発と同時に、道路や交通ルールの整備、免許証の発行、車検制度などが組み合わさって実現した。同様に、再生医療の技術開発だけでなく、それを受け入れる体制の整備が重要になる」(岡野氏)。

「日本には独特な呪縛が存在する」と田中氏

 続いて登壇した田中氏は、ノーベル化学賞受賞にもつながった質量分析の技術が、次世代の医療に大きく貢献する可能性について示した。島津製作所 田中最先端研究所などは2011年11月、質量分析システムを利用して血液1滴からの病気の超早期発見につなげる画期的基礎技術を開発したと発表。同氏は、同技術の概要などを中心に説明した。

 田中氏は冒頭、具体的な内容に入る前置きとして、「2011年1月に医療イノベーション推進室の発足が報道された際、医療とは関係のない研究をしていた私が、なぜ同推進室にかかわるのか?という反響が多かった」と切り出した。

 これを受けて田中氏は、「日本には、『専門家以外の人が参加することは変だ』という呪縛が存在する」と指摘。その上で、「日本は自動車や家電、ロボットなどのものづくりで総合力を発揮してきた。その力を医療に展開できれば、もっと日本、世界に役立てられる」と訴えた。

 田中氏は、自身の現在の研究開発においては、「自然にこのような異分野融合の『場』ができていた」と説明。「一生懸命(一所懸命)も大切だが、専門外の場で“賢明”になれる機会も大切だ」と締めくくった。