日立製作所は、パケット光トランスポート・システム(POTS)用のFPGA設計に、米Bluespec, Inc.(以下、Bluespec社)のESL設計ツールを適用していることを発表した。この発表は、「Bluespec User Group Meeting 2012」(2012年1月27日に東京で国内代理店のサイバネットシステムが開催)で行われた。

図1●Bleuspec導入の軌跡を語る菊池光司氏 Tech\-On!が撮影。スクリーンは日立のデータ。
図1●Bluespec導入の軌跡を語る菊池光司氏
Tech-On!が撮影。スクリーンは日立のデータ。
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 登壇したのは、日立の菊池光司氏(情報・通信システム社通信ネットワーク事業部 共通設計本部 DA部 主任技師)である。同氏は1年半ほど前に行われた「Bluespec User Group Meeting 2010」でも講師を務めた(Tech-On!関連記事1)。その際には、Bluespecの言語「Bluespec SystemVerilog(以下、BSV)」やBluespecのESLツール(以下、Bluespecツール)の評価結果について語っていた。その後2011年1月に日立はBluespecツールを購入して、高速・大容量の通信ネットワーク・システム機器に搭載するLSIの開発に適用を始めた(同2)。

 BSVやBluespecツールにはファンが多く、これまでにもその利点を語る講演を筆者もいくつか聞いてきた。ただし、多くは、メインの仕事とは別にファンが普及活動をしているとの印象が強かった。それに対して今回は、製品に使うチップ(FPGA)の設計に適用し、高位合成はもちろんのこと、検証でもBSVやBluespecツールを使っている。「少なくとも日本では、これほど本格的にBSVやBluespecツールを使っている例はほかにはない」(サイバネットシステム)。

検証でもBluespec

 今回の講演で菊池氏が見せた「導入の軌跡」によれば、BSVやBluespecツールは日立の情報・通信システム社通信ネットワーク事業部に確実に浸透してきている(図1)。例えば、1年半前の講演時に一人だったユーザー数は、今回の講演時には15名に増えた。また、ユーザー数の増加に伴い、2011年12月にはBluespecツールを追加で購入した。

図2●論理エミュレーションでもBleuspecを活用 スクリーンは日立のデータ。
図2●論理エミュレーションでもBluespecを活用
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図3●Bleuspecで設計中のLSIと応用先 スクリーンは日立のデータ。
図3●Bluespecで設計中のLSIと応用先
スクリーンは日立のデータ。
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 適用する工程の範囲も広がっている。当初はBSVやBluespecツールを高位合成に使っていたが、その後、テストベンチもBSVで記述するようになった。そして、現在では、論理エミュレーション時にもBSVを使うようになった。論理エミュレーションでは、開発対象のLSIだけでなく、テストベンチやLSIの周辺回路もBSVで記述する。

 これで、検証対象全体が論理合成可能になり論理エミュレータに載せられるため、ハードウェアによる高速処理が可能になる(図2)。なお、現在、この論理エミュレーションに使っているのは、他のEDAベンダーの論理エミュレータ(米Cadence Design Systems, Inc.製品と思われる)で、Bluespec社が用意する市販FPGAボード・ベースの「emVM」ではない。

BSV記述のIPコアを用意

 菊池氏とそのグループは、新たな設計手法や技術の評価・導入に加えて、その手法や技術を使って実際にLSIを設計するという役割を担っているという。現在、BSVやBluespecツールを使って、次世代ネットワークのコア・ネットワークで使われる(POTS)用のFPGAを設計している(図3)。さらに、菊池氏の隣のグループが設計するFPGAに対しても、BSVで記述したIPコアを提供中である。「BSVやBluespecツールにそれほど明るくなくても、それらの利点を使ってもらえるようにした」(同氏)。