国内電源メーカーが生き残る方策に

――デジタル制御電源に対する取り組みは、米国が進んでいると認識していました。この認識は誤りなのでしょうか。

財津 少なくとも、デジタル制御電源を積極的に採用しているのは、主にデータセンターに設置される装置であって、米国でも民生機器や産業機器といった市場にはまだ、それほど使われていません。

――欧州や中国、韓国はどうですか。

財津 米国と同じような状況だと思います。

――なるほど。今後、日本の電源メーカーは、どのようなスタンスで、デジタル制御電源と向き合えばよいのでしょうか。

前山 電源メーカーは二つのタイプに分けられると思います。コスト・オリエンテッドで勝負するメーカーと技術オリエンテッドで勝負するメーカーの二つです。前者は、台湾や中国、東南アジアのメーカーが中心で、後者は日本や米国、欧州のメーカーが中心です。日本という環境の中で電源メーカーがビジネスを続けようとすると、今後も技術オリエンテッドを志向するしかないと思います。そのとき、どんな技術で、差別化を図るのか。デジタル制御電源は一つの手段になるのは間違いないと思います。

 日本は幸いなことに、デジタル制御電源が適用される可能性を秘めた新しいアプリケーションがいろいろ出てきています。例えば、双方向DC-DCコンバータを搭載した蓄電システム。さらに将来的には、プラグイン・ハイブリッド車や電気自動車の充電システムも双方向になり、「ビークル・ツー・グリッド」や「ビークル・ツー・ホーム」といった電力のやりとりが可能になります。さらにその先には、磁気共鳴技術を使った非接触給電がある。

 こうした新しいアプリケーションに対して、電源メーカーがどういったソリューションを提案できるのか。恐らく、新しい回路方式や新しい制御アルゴリズム、さらには付加機能として、通信機能や故障診断機能などを提案していくはずです。そのとき、デジタル制御(ソフトウエア制御)は非常に有効な技術になる。アナログ制御を採用している限り、新たな試みをしようとするとカスタムICを起こす必要がある。しかし、デジタル制御であれば、ソフトウエアを開発するだけで、すぐにチャレンジできます。従って、技術オリエンテッドを標榜する電源メーカーは、デジタル制御が大きな武器になるはずです。

――現在、電源の主な機能は、半導体チップ(IC)の中にほとんど組み込まれています。電源メーカーや電子機器メーカーは、そのICを採用し、半導体メーカーが提供する技術資料通りに回路を作るだけ。独自性の出しようがありません。つまり主導権は、海外とか日本とかという区分けではなく、半導体メーカーが握っていると認識しています。しかし、電源のデジタル化が進めば、電源メーカー、もしくは電子機器メーカーのエンジニアがソフトウエアを書くことになる。つまり、電源エンジニアが主導権を握ることになる。本当は、千載一遇のチャンスだと思います。半導体は安価なマイコンで構わないわけですよね。

財津 そうです。普通のマイコンで構わない。それを使って、ソフトウエアが差別化していく。

前山 そうしていくことが、国内の電源メーカーが生き残るための一つの方策でしょうね。

座談会を終えて

 「電源は、アナログ技術に残された最後の領域」。1990年代の前半に聞いたフレーズです。その電源にも遂に、2000年代前半からデジタル化の波が押し寄せてきました。「デジタル技術で実現できるものは、すべてデジタル技術に置き換わる」。そう考えていた私は、「意外に速いペースでデジタル制御電源は普及する」と思っていたのですが・・・。なかなか普及しません。なぜなのだろうか。その答えを見つけるために、今回の座談会を企画しました。

 電源技術に詳しい3名のお話をうかがうことで、その答えが完璧とまでは言えませんが、だいぶ分かったつもりです。「デジタル制御電源のユーザー・メリットの周知徹底が足りないこと」。「デジタル制御電源が持つ潜在能力を生かして切れていないこと」。「電源メーカー側のソフトウエア開発態勢が十分に整っていないこと」。この三つのハードルが存在することが、普及になかなか至らない答えでした。この三つのハードルを一つずつクリアしていけば、デジタル制御電源の普及が見えてきそうです。

 制御系のデジタル化を極めれば、現在のアナログ電源では到達できない性能を達成できる可能性があります。デジタル・インタフェースを利用すれば、今までにはない電源のアプリケーションが生まれるかもしれません。電源メーカー、そして電源ユーザーは、「電源のデジタル化」の波に乗り遅れることなく着いていく必要がありそうです。(山下勝己=テクニカル・ライター)