――市場では、まだ数が少ないフルデジタル制御電源用ICですが、現在がどのような用途で使われているのでしょうか。

財津 先ほど、説明したのですが、電源の心臓部をデジタル制御するメリットは、たくさんのスイッチ素子のオン/オフをきっちりとしたタイミングで制御できる点にあります。このため照明のように、例えば、最初の10秒間程度はずっとオンにしておいて電圧を高めて、それからいったん低くし、その後は温度などの情報を考慮しながら随時調整するといった用途に向くはずです。

 このほかでは、太陽光発電システムのMPPT (Maximum power point tracker)などはすでにずっと以前からデジタル制御を採用しています。入力電圧と、出力電圧、出力電流を監視しながら、最適なポイントを行ったり来たりしながら探すという使い方は得意ですね。

 それから、最近、話題になっているデジタルPFCも、最適なポイント探しが得意なことを生かしたアプリケーションだといえます。なぜなら、入力が交流(AC)だからです。交流は「生もの」です。入力電圧は常に変化していますし、負荷も軽い状態と重い状態の間で絶え間なく変動します。こうした広い変動範囲すべてに対して、高い力率と低い歪み率を実現するのは、アナログ制御ではなかなか難しい。

 そこでデジタル制御の出番ということになる。デジタル制御を使えば、入力電圧範囲と負荷変動範囲の両方に対して、一つの製品で対応できるようになる。通常は、少なくとも、100V入力系と200V入力系は、異なる製品で対応することが多いですね。

――このほか、デジタル制御電源の採用が期待できる市場はどこでしょうか?

鈴木 私は、こうした話をするときは、標準カタログ品と、特注(カスタム)品に分けるべきだと考えています。

 標準カタログ品の世界は、デジタル制御電源は厳しいとみています。電源メーカーが勝手に、標準カタログ品のシリーズを作って、「デジタル制御電源です」って売り込んでも、全然興味を示さない人が大半です。もちろん、「こういう風に使われるだろう」と想定して開発するのですが、個々にお客さんのニーズに、標準カタログ品で対応するには限界がある。

 しかし、特注品の世界は大きな可能性があると考えています。お客さんの要求に対して、一件ずつ対応する中で、デジタル制御電源の活躍の場はたくさんあるはずです。

――具体的には、どのような用途で使われる可能性があるのでしょうか。

タイトル
ベルニクスの鈴木氏

鈴木 本当に多種多様な可能性があります。例えば、防災システム。津波情報システムなどは無人装置が多いので、バッテリー(2次電池)の劣化に気付かないでいると、いざというときに役立たない可能性がある。しかし、そう頻繁に点検に回るわけにはいかない。そこで、デジタル制御電源の出番になるわけです。通信機能を搭載し、バッテリーを監視するわけです。バッテリーが劣化するとインピーダンスが上昇しますので、デジタル制御電源ですべて分かります。

 つまり、防災とか、遠隔監視とかの問題を解決するには、デジタル制御電源が適しています。ただ、標準カタログ品だけでは、なかなかすべてをカバーできない。従って、たくさんの種類を作る必要があるわけです。

――つまり、特注品で対応するわけですね?

鈴木 その通りです。デジタル制御電源を利用したシステムを提案すると、お客さんはほぼ間違いなく話に乗ってきます。

財津 ただ、こうした例だと、単にデジタル・インタフェースを用意するだけでなく、フルデジタル制御電源にする必要がありますよね。バッテリーの電圧と電流を監視しながら、電源回路のデューティ比を制御して電圧を変化させて、バッテリーの状態を確認する必要があるので・・・。

鈴木 その通りです。先ほどの例は、フルデジタル制御電源でなければ対応できません。

 ただ、お客さん側はフルデジタル制御電源かどうかについては、あまり気にしていないですね。特注品のデジタル制御電源を使ったシステムを提案すると、ほとんどのお客さんが「そんなことができるんだ」と驚かれます。こうして興味を持ってもらったお客さんに、「最初のソフトウエアは当社で書きますので、次からは御社で開発してください」と言って、マニュアルも差し上げる。そうすると、一度手にすると癖になるようで、デジタル制御電源の深みにどんどんはまっていく。そうしたお客さんがとても多い。恐らく、デジタル制御電源は、こういったかたちで違和感なく使いこなせる人が増えていくことで、徐々に普及していくのではないかと考えています。