ソフトウエア信頼性の担保が課題

――それでは、デジタル制御電源の現時点におけるデメリットは何でしょうか?

タイトル
ベルニクスの鈴木氏(左)と司会の山下氏

鈴木 信頼性ですね。つまり、「ソフトウエアがぶっ壊れたら、電源はどうなっちゃうんだ」ということです。

 デジタル制御電源用ICのメモリーに格納したデータが書き換わってしまったり、ノイズによってエラーが発生したりして、1V出力のはずが5V出力されたら大変な事態を招きます。アナログ制御電源であれば、スイッチ素子が壊れても、電圧が出力される事態はあまり起こりません。しかし、ソフトウエア・ベースのデジタル制御電源の場合は、電圧が出力されるモードで壊れる危険性があります。

――電源メーカー側は、何か対応策を打っていないのですか?

財津 もちろん、ハードウエアの保護回路をたくさん付けています。例えば、ソフトウエアが暴走して、1Vの設定のはずなのに出力が5Vにポンと上がってしまったときは、外部にコンパレータ(比較器)を用意してあり、ここで必ず過電圧を検出して停止させます。さらに、デジタル制御電源用IC自体も、過電圧検出に向けた周辺回路を用意しています。

 ただ、よくよく考えると、アナログ制御電源でも、PWM制御ICが何らかの理由で壊れれば、同じような危険性を秘めていますので、そう大差はないかと思います。

前山 アナログか、デジタルか。現在、制御の部分でパラダイム・チェンジが起こっています。今までハードウエアだったところがソフトウエアに変わる。このため、設計する側の電源メーカーも、その電源を購入して評価する電子機器メーカーも、ソフトウエアをどうやって評価/検証するのか。これに関する知識と経験を、双方ともある程度のレベルまで高めないといけません。そうでなければ、デジタル制御電源をすぐに装置に組み込むところまで持って行けないかもしれませんね。

 実際のところ、電源は、感電や火災といった事故につながる危険性が高いので、安全規格の取得をユーザーが要求されます。この安全規格の規定の中には、異常試験という項目があります。例えば、電源の構成部品それぞれに対して、短絡(ショート)モードで壊れた場合や、開放(オープン)モードで壊れた場合に電源はどのような状態になるのかを確認します。しかし、ソフトウエア・ベースのデジタル制御を採用した電源では、「どうやって同じ試験をやったらいいのですか」という疑問を投げ掛けてくるユーザーもいます。つまり、プロセサの中にソフトウエアが全部入っていますから、試験をしようにもやる方法がないのです。

 このように、デジタル制御電源の評価方法はまだ確立されていませんが、電源の組み込みソフトウエアの開発ノウハウも確立されていると言い難い状況にあります。このため、「能力成熟度モデル統合(CMMI:Capability Maturity Model Integration)のレベル3以上を取ってください。それでなければ、御社からデジタル制御電源は購入できません」と言ってくる電子機器メーカーもあります。

 従って、デジタル制御電源のソフトウエアについては、信頼性や品質の評価という点で、いろいろ議論を重ねている段階なのかもしれません。

デジタル電源・座談会(下)に続く