――デジタル制御電源の電源メーカー側のメリットは分かりました。しかし、ユーザー側のメリットが今ひとつ分からない。先ほど、米国の一部の装置メーカーの例を挙げてもらいましたが、ほかにもデジタル制御電源の導入によってユーザー側がメリットを得た例はないのでしょうか。

前山 実際のところ、デジタル制御電源の導入によって、ユーザー・メリットが得られた例がいくつか出てきています。例えば、私が現在担当している電気自動車やハイブリッド車、プラグイン・ハイブリッド車の用途です。これらの用途では、デジタル・インタフェースを備えたデジタル制御電源を搭載しています。

 通常、これらの自動車では、単位あたりのエネルギーでどれだけの距離を走行できるのかというテストを繰り返します。そのとき、電源の出力電圧と出力電流をどういった値に設定すれば最大の成果を得られるのかを、いろいろ条件を振ってテストします。このとき、アナログ制御電源だと、出力電圧を0.5V高めようと思ったら、電源を取り出して設定し、再びセットアップする必要がある。しかし、デジタル制御電源であれば、デジタル・インタフェース(CANバス)を介して設定できるので、すぐにテストを実行できます。わざわざ電源を積み下ろす必要がなくなるわけです。これは、デジタル制御電源、もしくはデジタル・インタフェースのメリットだと思います。

財津 この例は、デジタル・インタフェースのメリットですね。こういった例であれば、鈴木さんもたくさんの経験をお持ちかと思いますが・・・。

鈴木 要するに、お客さんは良質な直流電源が欲しいだけなのです。良質な直流電源が得られれば、あとは設定の問題になります。「何を提案すれば、ユーザー・メリットを生み出せるか」という視点で考えれば、設定に関しては多様な可能性があります。

 ある半導体テスタ・メーカーの例なのですが、半導体テスタにはPOLコンバータがプリント基板にたくさん並んでいます。FPGAに電力を供給するためです。あるとき、FPGAを35nmプロセスで製造した品種に変更したのです。そうしたら、FPGAでエラーが起きてどうにもならない。どうやら電源電圧が許容範囲から外れてしまったようなのです。

 それまで採用していたのはアナログ制御のPOLコンバータで、これを使って出力電圧を設定していました。通常は、プリント基板上に実装する外付け抵抗を使ってFPGAに供給する1V近辺の電圧に設定するのですが、これが難しい。プリント基板上の配線の直流抵抗によって、基準電圧(リファレンス)がずれてしまうからです。必要な供給電圧は1.000Vで、許容範囲はわずか50mV。基準電圧がずれてしまえば、供給電圧はこの許容範囲を外れてしまって、すぐにエラーが発生してしまいます。

 そこで当社は、お客さんにデジタル制御(デジタル・インタフェース)を勧めました。複数のPOLコンバータの供給電圧を一つずつ、PMBusを使って外部から最適な値に設定するわけです。しかも、ついでに供給電圧を振って、マージン・テストも行えてしまう。デジタル制御を使えば、1mV単位で細かく設定できます。

 私は当初、デジタル制御(デジタル・インタフェース)は、供給電圧の立ち上がり時の傾き設定などで使われると考えていました。

財津 そのほかに、電源シーケンスの設定もそうですよね。

鈴木 その通り。でも、実際はそんな要求は全然ない。要求があったのは電圧値の設定だけです。半導体テスタ・メーカーのほかに、通信インフラ装置メーカーも、同様の理由でデジタル制御(デジタル・インタフェース)を採用しています。

――半導体テスタ・メーカーと通信インフラ装置メーカーが採用したのはデジタル・インタフェースを使った電源と言うことですね。制御系は、アナログとデジタルのどちらですか。

鈴木 両方あります。アナログ制御でも、デジタル制御でも実現可能です。FPGAへの電力供給の用途であれば、価格も似たり寄ったりです。デジタル制御電源用ICの価格が下がっていますから。

――変換効率はどうですか。

鈴木 両方とも93%ぐらいですね。この程度の出力電力であれば、デジタル制御を採用したからといって、変換効率が高くなることはありません。アナログ制御電源とデジタル制御電源の変換効率に差が出てくるのは、絶縁型で、共振回路を使って、出力電力は数kWといった電源です。さきほど前山さんに紹介していただいた、電気自動車やハイブリッド車に向けた出力電力が大きい電源であれば、デジタル制御の効果をかなり得られると思います。

 ここで、ちょっと話を整理したいのですが、お客さんのメリットとして現在明確になっているのは、デジタル・インタフェースで出力電圧を設定できる点ぐらいでしょう。一方、フルデジタル制御電源は、お客さんのメリットとは無関係です。フルデジタル制御電源は、変換効率やノイズ、コスト、部品点数、外形寸法といった電源の本質を突き詰めるために必要なもの。私はそう考えています。

財津 その通りだと思います。お客さんには関係ないんです。