デジタル制御電源のエキスパートの方々をお招きした座談会の第2回目をお届けする(第1回目はこちらから)。出席者はベルニクス 代表取締役社長の鈴木正太郎氏、TDKラムダ 取締役 チーフ・テクノロジー・オフィサーの前山繁隆氏、日本テキサス・インスツルメンツ(TI) 営業・技術本部 応用技術部の財津俊行氏の3名。前回から引き続き、デジタル電源制御のメリットについて議論した。(司会:山下勝己=テクニカル・ライター)

高効率化や低コスト化も可能

――デジタル制御を適用することで、低コスト化や高効率化、小型化などを実現できるのですか。それともできないのですか?

財津 実現可能だと思います。デジタル・インタフェースの話は置いておいて、フルデジタル制御電源、すなわち制御系のデジタル化のメリットについて話したいと思います。

 制御系をデジタル化することのお客さんに対するメリットは、スイッチを正確なタイミングで打てる点にあると思います。例えば、スマート・グリッド用のパワー・コンディショナーにしても、双方向の絶縁型DC-DCコンバータにしても、スイッチ素子をたくさん搭載しています。一次側もフルブリッジで、二次側もフルブリッジ。つまり、スイッチ素子は合計で8個もある。インバータならば12個も必要です。それらのスイッチ素子のオン/オフを正確なタイミングで打っていく。しかも、負荷条件や入力条件で、必要なデッドタイムは時々刻々と変化する。現在、アナログ制御では、こうした変化を考慮して、スイッチ素子をオン/オフさせるタイミングをかなり保守的に制御しています。

 しかし、こうしたタイミングを状況に合わせてきっちりns(ナノ秒)オーダーで調整すれば、ノイズを減らせるし、スイッチング損失も減らせる。その結果、電源の小型化や低コスト化、高効率化を実現できる。これがフルデジタル制御電源のメリットだといえるでしょう。

――つまり、アナログ制御では、安全サイドに振って、デッドタイムを余分に取っているため、デジタル制御の導入でスイッチ素子のオン/オフを正確に制御できるようになれば、デッドタイムをギリギリのところまで詰められる。この結果、高効率化や小型化が可能になるということですね。

財津 そうです。高効率化と小型化。電源としてのメリットはこれです。これこそが電源の本質なので、ここに話を持って行かないといけない。基本的に、お客さんが求めているのは高効率化や小型化であって、デジタル制御の適用ではないのです。

タイトル
TDKラムダの前山氏(左)と日本テキサス・インスツルメンツの財津氏

前山 ここで実例を挙げてデジタル制御のメリットを説明します。当社(TDKラムダ)は、「EFEシリーズ」というフルデジタル制御の電源モジュールを販売しています。この電源モジュールの特徴は、変換効率が高いことにあります。実現できた理由は、共振回路の新しいトポロジを採用した点にあります。

 アナログ制御でも、このトポロジを実現できるのですが、その場合はカスタムICを起こす必要がある。開発期間は約1年、開発コストは7000万~8000万円もかかってしまいます。これではビジネスになりません。そこで採用したのがソフトウエア・ベースのデジタル制御(ソフトウエア制御)です。制御に必要なICは、価格が80~90円と安い8ビット・マイコンで済みますし、ソフトウエア開発に費やす期間も3カ月程度です。開発コストについても、ソフトウエア開発だけですので数千万円もかからない。人件費だけで済む。こうして、新しいトポロジの電源モジュールを世に送り出すことができたのです。これは、デジタル制御のメリットを生かした好例だと思います。

 ただし、この電源モジュールも、お客さんから見れば、「単なる効率の高い電源」にすぎません。デジタル制御を採用しているからといって、買ってくれるわけではない。この点は、鈴木さんと財津さんの意見とまったく同じです。