「アナログ技術の塊」。そう考えられていた電源にも「デジタル化の波」が押し寄せている。マイコンやDSPの性能向上によって、高速な信号処理が求められる電源制御が実現可能になったからだ。

 デジタル技術を採用した電源。すなわちデジタル制御電源が市場に登場し始めたのは2000年代始め。そのころは、いずれはアナログ制御電源を置き換え、デジタル制御電源が主流になるとの見方が大半を占めていた。しかし、現実はそれほど甘くはなかった。10年弱経過した現在、デジタル制御電源は当初の期待ほど普及していない。 

 今回は、日本国内におけるデジタル制御電源のエキスパートの方々をお招きして、デジタル制御電源が抱える課題や、今後の技術/市場動向などについて座談会形式でお話をうかがった。お招きしたのは、ベルニクス代表取締役社長の鈴木正太郎氏と、TDKラムダ 取締役 チーフ・テクノロジー・オフィサーの前山繁隆氏、日本テキサス・インスツルメンツ(TI)営業・技術本部 応用技術部の財津俊行氏である。(司会:山下勝己=テクニカル・ライター)

——最初に、デジタル制御電源の定義をうかがいたいと思います。まずは、鈴木さん、よろしくお願いします。

タイトル
ベルニクスの鈴木氏

鈴木 電源とは、どんなものでも一つの箱があって、そこに二つ入力と二つ出力が付いている。つまり、4本の端子が付いた箱を電源と呼ぶわけです。しかし、これはあくまでアナログ電源の定義であり、デジタル電源はちょっと違う。端子がもう2本付いている。この端子に対応した機能に向けたソフトウエアを入れてやらないと動作しない。それがデジタル電源だと思います。

財津 ちょっと話が、哲学的で難しくなっちゃいましたね(笑)。

前山 そうですね。それでは、もう少し簡単に定義してみます。スイッチング電源とは、基本的に出力電圧を安定に制御するものです。そのために出力電圧をモニターして、その情報を元にスイッチング素子のオン/オフ期間を制御します。そのオン/オフ期間を決める信号処理の過程をアナログ回路で処理しているものをアナログ制御電源。一方、それをデジタル回路で処理しているものをデジタル制御電源と呼びます。これが基本的な考え方だと私は理解しています。

 ただし、デジタル制御電源を細かく分けると2種類あります。一つは、ハードウエア・ベースのデジタル制御電源。もう一つは、ソフトウエア・ベースのデジタル制御電源です。

 ハードウエア・ベースのデジタル制御電源とは、ハードワイヤードで組んだデジタル信号処理回路で実現したものです。ソフトウエアは不要です。この手法を使っている具体例としては、パソコンのマイクロプロセサに電力を供給するVRM(Voltage Regulator Module)があります。これはDC-DCコンバータであり、デジタル制御電源の典型的なアプリケーションです。

 もう一つのソフトウエア・ベースのデジタル制御電源とは、プロセサとソフトウエアを使ってデジタル制御する電源です。現在、電源業界で一般的にデジタル制御電源と呼んでいるのは、このソフトウエア・ベースを指すことが多いようです。従って、「デジタル制御電源」と言うよりも「ソフトウエア制御電源」の方が正確な表現なのかもしれません。